オアシス
家から、呼ぶ声に答えてマグナが慌てて走っていく。
その背の後を追いながら、ネスティは小さく笑みを浮かべた。
・・・本来、騒がしいのは苦手なタチだ。
ずっと、そう思ってきた。
だけど、
中には“嫌じゃない騒がしさ”も、あったと。
最近は少し、そう思えるようになってきた。
――――・・・早く、離れないと。
ここは、居心地が良くて、困る。
『自分が、好きだと思う人たちを、その居場所を守れたら、あとはどうなったとしても、本当は構わないんだとしたら?』
――――あの時の、トウヤの答え。
本当は、すぐに答えられる答えは自分の中にもあった。
「・・・どうもしないさ」
誰にも聞かせるつもりのない独白に、唇が自然と笑みを形作る。
「たぶん、僕も同じだ」
聖王都へ戻れば、またこことは違う価値観の中で生きなければならず、自分たちを縛る鎖を完全に断ち切ることも出来ないのだから。
・・・それでも、彼が笑うから。
「ネスと一緒なら、いいよ」
そう言って、優しいその手で触れてくるから。
・・・それさえあれば、何処でだって、生きていけるのだろうけれど。
だけど、もう少しだけ、ここにいても良いだろうか。
この、何処にでも開かれた、壁のない、閉じた“楽園”に。
どうか、いつまでも夢から醒めずにいられる事を願いながら。