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ヘタッスル!

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肝試しをしよう。そう言い出したのは、例によって騒々しいお調子者、もといヘタしの森のムードメーカーである米代だった。
「だってせっかく夏じゃないか、ホラーの季節だぞ! 一人でホラー映画を観るんじゃ怖いから、皆で肝試しをすればいいんだぞ!」
「……ああ、そうだな。よしやろうか」
 普段ならば仏沢の笑顔の圧力もといキャプテンの冷静な判断によって黙殺されるはずの意見が、今日に限って通ってしまったのは、先日夏の大会が終わって気が抜けていたところだからだろう。あの人、割りに気分屋なところがあるから。日井は胸の内でそう呟きながら、学習机の引き出しを漁る。
 隣でスポーツバッグの中をごそごそと探っていた米代が、
「あーどうしよう!」
 と叫んで勢いよくこちらに顔を向けた。
「ねえ、キクは何か見つかったかい? おどかすための道具なんてちっとも思いつかないぞ!」
「あなたが言い出したことでしょう、ご自分で考えてください」
 容赦なく切り捨てつつ、日井も同じ悩みにぶちあたっていたところだったので、ハアとため息をつく。
「いきなり、何か怖がらせるために使えるものを持ってこいと言われましてもね……」
 急遽今夜、松葉寮裏の林にて決行されることとなった肝試しにおいて、オバケ役や道々に仕掛ける予定の小道具は、部の幹部である三年生と、言いだしっぺである米代、そしてとばっちりで同室の日井が責任を持って用意することとなった。だが、二人で一間を分け合う窮屈な寮生活を営む日井たちに、そうそう余分な所有物のあるはずがない。持ち出すのが簡単でかつオバケ役にそれなりに貢献するだろうカーテンは、三年間の寮生活でサッカー部での暮らしの泳ぎ方を知り抜いている先輩たちに「じゃあ俺たちが持ってくぜ」と手を上げられてしまった。それ以外で何か用意しなければならないとなると、いくら日井といえど、やはり頭を抱えてしまう。
「ねえねえキク、サッカーボールはどうかな。カーテンにくるんで大きなてるてる坊主みたいにするんだ! 暗い所で見たら、首を吊ってる人みたいでけっこう怖いと思わないかい」
「ボールは練習場からいくらでもこっそり持ってこられますからね、いかがなものでしょうか」
 やんわり「やめておけ」と言うと、米代はゴロンとフローリングに横になった。
「もうっ、使えるものなんか全然思いつかないぞ!」
「ですねえ」
 ここが実家であれば、あるいは肝試しが明日であれば、仏壇から線香やらロウソクやら持ち出すなり、何か買ってくるなり、はたまた何か自作するなりと方法はいろいろあったのだが、いかんせん急な話すぎる。
 諦めて物探しを放棄した米代に、
「他の方はどうしていました? さっきふらっと他の部屋に遊びに行っていたでしょう」
 と尋ねてみると、
「他の人? ああ、三カークランド先輩をからかいに行ってきたんだ。先輩なら、書道の道具取り出して黙々とお札作ってたよ。チェックポイントに置いておくんだって言ってたけど。本当あの人、やることが根暗だよなあ!」
 と気のなさそうな返事が返ってきた。いくら数少ない一軍レギュラー同士それなりに気安い相手とはいえ、目上をわざわざからかいにいく米代に呆れると同時に、なるほど三カークランド先輩ならばやりそうなことだ、と納得する。部屋で一人床に正座をして真剣に墨をすっている三カークランドを想像して、思わずほころんでしまった口元を手で隠した。きっと米代だけでなく、同室の仏沢にも陰気だの何だのおちょくられたに違いない。
「あ、では仏沢さんはどうしていました?」
 そこまで連想して質問すると、米代はごろんと寝返りを打ち、腹ばいになってから首を傾げた。
「あれ、そういえばキャプテンは部屋にいなかったなあ。なんか三カークランド先輩が、あいつは今買い物に出てるって行ってたけど」
「ですが、この近くで開いている店といったら、コンビニか、せいぜいスーパーぐらいしかありませんよね」
「だよね。いったい何を買ってくるつもりなのかな。……あっ、ひょっとしてトマトじゃないかな? 誰だったっけ、選抜で会った関西弁の奴が、トマトをぶつけ合うお祭りがあるって言ってたぞ! トマトが潰れたら血みたいに見えて怖くないかい」
「ああ、それはあるかもしれませんね」
 選抜で会った関西弁の奴、とはおそらく若菜結人ーニョのことだろう。以前、サッカー雑誌で次世代の期待の新星として三人一組で取り上げられていた彼の写真を思い浮かべ、日井は思わず嘆息してしまう。都選抜から声も掛からなかった日井にとって、同じDFとして一歩も二歩も先を行く結人ーニョは憧れの存在といっても過言ではないのに、実際会っているくせにあっさり名前まで忘れてしまえる米代には羨ましさを通り越して一種の尊敬すら感じる。
 まあ、それは今は関係のないことだ。こうして部屋で煮詰まっていても、良いアイディアは浮かばない。壁の時計を見上げると、時刻はそろそろ七時半を回ろうというところだった。急遽決まった肝試し実行委員が集合することになっている八時まで、まだ少し間がある。
「少し出てきますね」
「うん、行ってらっしゃい」
 すっかりくつろいでゲームの電源を入れる米代に「大丈夫なんですかこの人」と心配になりながら、日井は外に打開策を求めて立ち上がった。


 同級生の部屋を回ってみたり、談話室を覗いてみても、不思議と誰も捕まらなかった。部屋はともかく、夜の談話室には必ず暇を持て余した誰かしらが集まっているはずなのに。
 初めは皆このあとのための準備に走り回っているのかと思ったが、それにしても誰ともすれ違わないのは奇妙すぎる。
 まさか、肝試しするまでもなく、全員怪奇現象によって消えてしまったのでは。
 一瞬そんな、B級映画のような疑惑が浮かんでしまい、日井は慌てて首を振った。米代ではあるまいし、荒唐無稽な世迷言を言っていてどうする。
 それでもガランとした寮内に薄気味悪さを感じずにはいられない。日井はしまいには足早になって大浴場に向かっていた。もしかして、皆で外に買い物にでも出たのだろうか。この時間、寮母に見咎められず出入りするには大浴場横の通路の窓を利用するのが暗黙の了解だ。ひょっとしたらそちらに何か痕跡が残っているかもしれないし、第一、少なくとも仏沢キャプテンだけはどこに行ったかハッキリしているのだ。そろそろ集合時間であるし、買い物から帰ってきた仏沢を捕まえられるかもしれない。
 そう考え、日井は一階に降りた。夜の廊下は、蛍光灯の明かりがどこか白々しく、ひんやりしている。いつもはあちこちに部員の笑い声が響いて、薄ら寒さなどどこにも無いのに。
 もはや駆け足になりながら、日井は急く手でガラッと窓を開けた。そして見た。闇から伸びてきた腕を。
「っ!」
 目の前にあった光景に声を上げかけた日井の口を、外からの手が問答無用で塞ぐ。一瞬暴れかけた日井の首に別の腕が絡まり、やがて日井の体から観念したように力が抜けた。


「キクの奴、遅いなあ」
作品名:ヘタッスル! 作家名:ゆうわ