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会いたい

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千昭が友梨と付き合うことになり、二人きりでキャッチボールをやったあの日。「俺に彼女が出来たら、真琴が一人になるだろ?」と笑ってたあの…。
「功介、今日はどうして誘ってくれたの? 果穂ちゃんは?」
「藤谷さん? 今日は用事だってメールした」
がたたっと立ち上がる真琴。
「なっ! なんで…。そんな、果穂ちゃんに悪いよ…」
「特別な約束してたわけじゃねえし、大丈夫だって。お前が気にすることじゃねえから。落ち込んだ友達を慰めることのほうが大事な日もあるんだよ」
功介はコーヒーを飲みながら「ほれ、座れ」と真琴をなだめる。椅子に座り直し、真琴は食べかけの最後のドーナツを口に入れた。
「功介…」
「ん?」
「ありがと…」
ほほを膨らませながら頭を下げる真琴。いつもの様子に戻った友人に、功介は苦笑いしながら返す。
「俺ってイイやつだよなー」
「うん。それは認める。功介はいい男だ」
「けっ。お前に言われてもちっとも嬉しくねえよ」
「なにおう! 人が褒めてやってるのに、そんな言い方…」
「はははっ、ホントに元気になったな。良かった…」
功介の笑顔につられ、真琴も微笑んだ。
「功介、あたしね…」
「?」
「…。いい。やっぱり内緒」
言いかけた言葉を飲み込み、真琴は代わりにカフェオレを流し込んだ。
タイムリープと千昭と夏と…。一生消えない、消せない、消さない思い出たちが言葉になって口から溢れそうになり、真琴は功介に秘密を打ち明けそうになった。
「気になるんだけど…」
「ごめーん。でもホント内緒なんだ」
言いながら、席から外のガラスを眺める。人が歩いているのが見えた。
一人一人違う人生があって、違う道を歩いていて…。そういう、当たり前のことを今更ながらしみじみと感じて胸がいっぱいになった。


千昭に会いたい…。
その気持ちは今でも変わらず持っていて…。でも、それは叶わない願いだと、真琴は痛いほど分かっていた。時をこえた経験が、今を生きることが千昭に繋がると教えてくれたから。
沢山の時間が自分の上に降り積もり、そして千昭が生まれる…。そのことが、今は嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。寂しい気持ちも、それで乗り越えられる。きっと…。
氷だけになったグラスの中の氷が、きしゅっと音を立てる。ストローをマドラーのように回し、冷たい水を飲んだ。


辺りは夏を残しながら、少しずつ空が高くなっていく秋口の9月。
千昭と出会ったまだ肌寒かった春の日から数えて幾日過ぎただろう。
「あたし、頑張るね…」
店を出て街中を自転車を押しながら、真琴は空を見上げて呟いた。
言葉が時をこえて、千昭に届くようにと願いを込めた。
「頑張るから…」
繰り返して目を閉じる。胸いっぱいに空気を吸い込み、そして吐いた。
青い空はあの頃と変わらず、真琴に自由を感じさせてくれる。
「千昭。待っててね。すぐに行くから…」
背筋の伸びた姿で空を見上げている真琴の後姿は、今朝のそれとは別人のようだった。
それに、功介はほっとしながら歩く。真琴にならって空を見上げた。
「千昭も早く来いよ。真琴が待ってるぞ」
小さな呟きに少しの苦笑を滲ませ、ずり落ちそうになったバッグを肩にかけ直した。

空には飛行機雲が伸び、青空を二つに分ける。それが少しずつ辺りに溶け込んでいくのが見え、真琴が指を伸ばす。
空に届きそうな錯覚に、二人で声を上げて笑った。
一人足らない、二人きりの放課後。でも、そこには笑顔があった。
二人の心の中に、今も変わらずに千昭は居るのだから…。




END


作品名:会いたい 作家名:みず