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引いた籤は大物でした

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 朝晩の涼しさも増し、制服が夏から秋の装いへと切り替わった、とある週。
 金曜日の夕方、街の片隅で。











「───なあなあ、ちょーっと俺達と一緒に過ごしてくれるだけで良いんだぜ?」
「いえ、あの…俺、もう行かないと」
 身を守るように学生鞄を両腕で抱き込んだ少女の周りに、柄の悪そうな青年が3人。
 見た目と制服から判断するに、高校生だろうか。
 対する少女は、並盛中学校の制服を身に纏っている。
 毛先に緩やかなウェーブのかかった蜂蜜色の髪を肩より長く伸ばし、こぼれ落ちそうなほど大きな瞳の色は澄んだ琥珀色。
 小さな顔にはちょっと低めの鼻とふっくらした唇もバランス良く配置されており、華奢な体つきも相俟ったその姿は、他人の目を惹きつける美少女と評されてもおかしくない。
「だったら、さっき俺にぶつかった分のお詫びをして貰わないとな」
 退路を塞ぐように囲み込んで、青年達は自分たちより頭一つ分は背の低い小柄な彼女を見下ろしている。
「だからそれは、さっき『すみませんでした』って謝ったじゃないですか」
「そんなもんじゃ足りねぇんだよ!」
 声を荒げた青年に、少女がびくん、と体を震わせる。
「おいおい、それじゃあ怯えちまうだろ?…ほら、だから言っただろ?ちょっとだけ、俺達に付きあってくれれば良いって」
 下卑た笑いを浮かべて、青年の一人が少女の肩に手を掛けようとした時だ。




「そこで何してるんだい」




 青年達の背後からかけられた凛とした声に、彼らは振り返った。
 そこに立っていたのは、一見華奢にも見える細身の少年。
 学校指定のカッターシャツに黒のスラックス、青いネクタイもきっちりと締め、紺色のベストを着込んだ姿は、学校の規律を守る生徒の鑑といえるだろう。
 だが、彼を模範生と呼ぶには、どこか違和感があった。
「あ?てめーにゃ関係ねえだろ」
「あるよ」
 磨かれた黒曜石のような瞳が、剣呑そうな光を帯びて細められる。
「群れを成して、うちの学校の生徒に妙な言いがかりをつけて、風紀を乱そうとするなんて。良い度胸してるじゃないか」
「風紀を乱すだと?…って、その制服にその腕章は、まさか…」
 そういえば少年の身に着けている制服は、少女と同じ並盛中のものだ。
 そして彼のシャツの左袖には、臙脂色の腕章。
 この街でそんな腕章を付けているのは、並盛で最も有名な集団に属する、学ランを身に纏ったリーゼント姿の人間くらいだ。
 しかし目の前の少年はリーゼントスタイルではなく、癖のないぬばたまの黒髪をさらりと風に遊ばせている。
「雲雀さ…じゃなかった、恭弥さん!」
「ひ、ヒバリだと!?」
 少女の声に、青年達は顔色を変えた。






 今年、学区外から並盛にある高校へ入学してきた彼らは、入学と同時に同級生達からあることを教えられた。
 一つ、学ランの集団を見かけたら群れてはいけない。
 一つ、相手が中学生だからといって侮ってはいけない。
 一つ、かの集団の頂点に君臨する者に逆らってはいけない。
「その子によってたかって、何しようとしてたんだい」
「まさかお前が…並盛中風紀委員長の、雲雀恭弥!?」
「なに、僕の事知ってるの」
 青年達は驚きと共に少年───雲雀を見遣る。
 学ランにリーゼント姿の、みるからに屈強そうな委員達を率いているにしては、あまりにも体格が違う。
「恭弥さん、有名人ですもんねぇ」
「僕の事は置いといて。…何やってるんだい、綱吉」
 ちらりと視線を投げられて、綱吉と呼ばれた少女は乾いた笑いと共に小首を傾げる。
「あー…それが、俺がうっかりしてて、この人達にぶつかっちゃって。一応ちゃんと謝ったんですけど、放して貰えなくて」
「そう」
 ふうん、と呟いた雲雀は、青年達に視線を戻すとどこからともなく愛器を取り出してちゃきりと構えた。
「…この子の言葉を理解できないんだなんて、頭のネジが何本か緩んでいるらしいね」
 にい、と黒い瞳が細められた瞬間、綱吉の目の前から青年達の姿が消えた。
 その直後、斜め後ろの方で、アスファルトにどさどさと何かが倒れる鈍い音がする。
「いや、緩んでいるんじゃなくて、最初からネジが抜けているのかな」
 目にも留まらない早さでトンファーをふるった雲雀によって、殴り飛ばされたのだ。
「ぐ…っ」
「が、は…っ」
「……っ」
 青年達は倒れ伏したまま苦しげに咽せたり唸ったりして、起きあがる様子を見せない。
 いや、雲雀の手でふるわれたトンファーの一撃が顎や腹に綺麗に入った為に、起きあがるどころかまともに身動きを取る事も難しくなったのだ。
「仕方ないね。君達の抜けてしまっているネジの分だけ、僕が直々に隙間を埋めてあげよう」
「それってもしかしなくてもぶん殴って隙間を埋めるって事ですよね!?」
 思わずノンブレスで突っ込んだ綱吉は、獲物を見据え右手にトンファーを構えたまま隣をすり抜けようとした雲雀のシャツの袖を慌てて掴んだ。
「そこまでしなくても良いですって!ぶつかっちゃった俺も悪かったんですし!」
「でもあの群れは、綱吉の話を碌に聞こうとしてなかったじゃない。…しかも、汚い手で綱吉に触ろうとした」
 青年達の触れる事が叶わなかった少女の肩に、雲雀の左手が触れる。
「この子に無遠慮に触れようとした報いは受けてもらうよ」
「わーっ!待って恭弥さん、ストップ!」
「止めないでよ綱吉、でないと僕の腹の虫が治まらない」
「でも、ダメです!」
 そのまま離れていこうとした雲雀の腰に、鞄をアスファルトの上に放り投げた綱吉の両腕が回る。
「腹の虫は、俺が作った晩ご飯で治めてください!」
 綱吉が叫ぶと、雲雀の動きがぴたりと止まる。