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昭和初期郭ものパラレルシズイザAct.4

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「あぁ。どうもご苦労様。」

そこへ置いてよ

静雄に笹から取り外させた短冊の束を
言いつけて持って来させた臨也は
顎で文机の横を指す

朝まで少年達を買った客も引けて
やれやれと店の者達が皆
世間一般とは逆の眠りにつく早朝

すっかりとカサついた笹から
千切られた幾つもの色とりどりの短冊が
ぱさりと机の横に積まれて

「どうすんだこれ」

白い麻の着流し姿の静雄が
スルスルと裾を引いてやってくる臨也に問う

「さぁ?興味ある?」

ふふ、と口の端を吊り上げて笑う微笑みは
コイツ独特だな気に食わねぇ、と
静雄はワザとそっぽを向いて
「興味無ぇ」と一言で切り捨て
「もう用が無ぇなら俺も寝るから」と
部屋を出て行こうとする手を
つい、と伸ばした臨也の手が掴む

「まぁそう言わず。無粋だねぇシズちゃん。こういうのは」

誘いに乗るのが当然でしょ?

微笑んだ臨也は手に持つ優美に細い煙管から
机の上の蝋燭へと火を灯す

「見ててご覧よ?」

ほら

その蝋燭にかざされたのは一つの短冊

『どうか早く年季が明けますように』

拙い文字で書かれているのが
一瞬で茶色い文字になって浮かびあがると
色紙で作った短冊は
ポウと儚く燃え尽きて
臨也はそれを机の上の鉢へと放る

「え・・・っ?」
「ふふ。シズちゃんは知らないか。」

檸檬の汁で書いた字はね
一見すると見えないけれど

「こうやって」

火にかざすと浮かび上がってくるんだよ

臨也は微笑んで
次の短冊へと手を伸ばす

次の短冊にもまた

『早く家へ戻れますように、母上の病が治りますように』

そんな文字が
一瞬茶色く浮かび上がっては儚く燃える

「この辺りは半玉の子達だろうねぇ。可愛い願いだ。」

叶うといいけど

臨也は如何にも心にも無さそうに笑って
燃えた短冊を鉢へと放る

次々に燃えてゆく短冊
書かれた願いも儚く消える
やがて手にした一枚の短冊には

『楽しいですか臨也さん』

書かれていて
それを見た臨也はそれは楽しそうにあははと笑う

「え。誰だこんなの書いた奴?」
「ふふ。青葉だよきっと。」
「手前。解るのかよ?」
「まぁね。今までの分も全部どの子か俺には解るよ。」
「えっ?」
「馬鹿だねぇシズちゃんは。こういう商売やってるとね。」

人を見る目も聡くなって当たり前

臨也は涼しい顔で青葉のだと言った短冊を
焼いて鉢へと投げ捨てる

青葉と言うのは
今のところ正臣についで二番目にこの店で人気のある子だ
正臣よりは一つ年下らしいが頭の回転が速く
顔立ちも如何にも瞳がくりくりとして可愛らしく
客には人気があるのだが、表と裏の差が激しく
金の切れた客には見向きもしない一面がある

「あの子は性格悪いからねぇ。見てて楽しいよ。」
「・・・手前。直してやんのが大人だろうが。」
「何言ってるのさ。そんなの俺の仕事じゃないし。」

大体ね賢い客ならあの子にはそうはなびかないよ
引っ掛かるような馬鹿な客はあの子に任せて

「せいぜい店の売り上げに貢献してくれるんなら俺は満足。」
「手前の方がよっぽど性格悪いぜ。」
「あはは。ありがとう。褒めてくれて嬉しいね。」
「褒めてねぇ!」

そんなやりとりのうちにも
短冊は次々に燃されて
少年達の願いが消えてゆく

『早く沙樹を身請けできますように』

そう書かれた一枚の黄色い短冊
それを見た臨也の瞳がふと哀れむように細くなる

「・・・誰だ、それ?」
「紀田正臣だよ。」
「え?沙樹ってのは?」
「あの子の恋人。そこの女郎屋に売られて来てる子さ。」
「・・・はァ?」
「解らない?あの子」

女郎に売られた自分の恋人を身請けする為に

「自分も身体売って金稼いでるんだよ。馬鹿な子だろ?」

ホント
馬鹿な子さ

燃え尽きる短冊を臨也の瞳がじっと見る

「馬鹿な子だよ。本当に。」

そう言い捨てて
次の短冊を燃すとまた今度は

『杏里が幸せに暮らせますように』

書かれた一枚

「おーやおや。類は友を呼ぶって言うけど」

昔の人はよく言ったもんだよね

臨也が苦笑してその短冊を見つめ
指先までもが燃えそうになってから
そっとそれを鉢へと落とす

「・・・今のは?」
「竜ヶ峰帝人。新入りの子だよ。あの純真そうな。」
「あぁ・・・あいつか。」
「馬鹿だねぇ。惚れた相手に惚れたとも言わず」

あの子
自分を売ってその子が売られるの防いだらしいよ?
と臨也が笑う

「ホント。ここに来るのは馬鹿ばっかりだよね。」

シズちゃん含めてさ

嫌味っぽく微笑みかけられて静雄は
しばし言い返さずに居た

「・・・何?調子狂うんだけど黙ってられると?」
「いや・・・手前は書かなかったのかよ?」
「え?」
「手前は。望みが無ぇのかって訊いてんだ。」
「俺の望み?」

しばらく
瞳が白々とした朝の光の中で交差する

「俺の望みなんか訊いてどうしたいわけ?」
「あぁ?別にどうもしねぇよ。」
「そういうシズちゃんの望みを先に聞かせてよ?」
「俺はただ平和に暮らしたいだけだ。静かにな。」
「名前の通り?」
「あぁ。そうだ。」
「つまんない男だねぇ?」
「手前にゃ関係ねぇだろうが。あぁ?」
「まぁそりゃそうだけど。」

そうだねぇ俺の願いは

臨也は言って笑い出す

「あ?何だよ?」

瞳を眇めた静雄が不審げに眉を寄せると
あぁごめんごめん

臨也が涙さえ拭いながらくっくっと笑いを堪える

「全人類の平和と幸せ。」
「ハァ・・・?」
「あはは。だから全人類の平和と幸せだよ。言った通り。」
「・・・手前。・・・ふざけてんのか?」
「ふざけてないよ。ねぇ考えてみなよシズちゃん?」

それしか
無いじゃない

臨也が急に
のし掛かるように静雄の白い麻の着物の襟を掴んで引き寄せる




「・・・俺に」



何を望めって
言うのかな






真近くに見える黒い瞳は
恨みがましい暗い色




「ねぇシズちゃん?」




その時
「あの、臨也さん」と
慌てたように襖の向こうで下男の声

「何だい?」

ぱっと静雄の襟首離し
臨也が答えるその声に
言いにくそうな低い声

「四木の旦那が・・・どうしてもって仰って。」




その刹那




ほんの一瞬
縋るような瞳になった




静雄がそれを捉えた瞬間には
もうその色は消えて見えなくなっていたけれど
今のは何だと瞠目するうち
「邪魔だよ出てって」と押し出され
下男にお通しして、と頷く臨也

「もう皆下がってるだろ。お前ももういいから。」
「ハイ・・・でもあの、茶や酒は・・・。」
「いいから。早くお通しして。」
「ハイ。」

ちょこちょこと
下男の男が小走りに走る廊下を見送って

「何してるの。君の用はもう終わったよ。」

部屋に戻って眠ってくれば

静雄を押しやる細い腕

「誰だこんな時間に?ややこしい客なら俺が、」
「いいから。シズちゃんには関係ない。大事な客だよ。」

さっさと行って

臨也が静雄を蹴り飛ばす

「この部屋近づいたら殺すからね。手出し無用だよ。」

そう言って
ピシャリと閉めた襖の内で
ずるりとしゃがむその場所で