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【stsk】君の知らない【白鳥→月子】

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初めは、校内で唯一の女の子だったから。
顔も可愛かったし、少しでも近付けたらラッキー。そんな下心もあって、俺は弓道部に入部した。

犬飼あたりは気付いてそうだけど、そんな不純な動機で入部したと知れたら副部長に視線で殺されてしまいそうだ。

だけどそれはあくまできっかけの話で、今では弓道にも自分なりに真剣に取り組んでいるつもりだし、それに…


「星を?」

「せっかく晴れてるし、思い出作りっていうか。七夕だし、明日は練習はあるけど学校は休みだし…!」


キラキラと輝く彼女の瞳を見て、ドキドキしながら、ああ、本当に星がすきなんだなぁと思う。
そして自分がそんな嬉しそうな顔をさせたのかと思うと、自然と頬が緩んだ。


「白鳥先輩もたまにはいいこと言うんですね」

「…ヒドイ!」

「木ノ瀬の言うことも一理あるな」

「副部長まで!」


助けを求めるように犬飼と小熊を見るけれど2人とも明後日の方を向いて知らない振りをするようにこっちを見ようとすらしない。

この2人には色んな意味で敵わないのはよくわかるが、いくらなんでも薄情だ…!

もちろん、2人きりで見に行こうなんてハナから思ってない。2人でいたって俺の心臓が耐えきれない。
一緒にいられるだけでよかったし、弓道部のみんなでいるのも楽しい。

下心がないと言ったら嘘になるけど、だからってこの仕打ちはあんまりだと落ちた肩に優しく手が乗せられた。


「2人とも、素直にいい考えだねって言ってあげなよ。」

「ぶちょ~!!」


いつも通りの笑顔の部長が菩薩の微笑みのようにすら見えた。


「星を見に行くにしてはまだ早いし弓道具もあるから後で集合しなおそうか。」

「じゃあ、先輩の迎えには僕が行きますよ」

部長にたしなめられて仕方なく黙った木ノ瀬がこの機を逃すまいと真っ先に宣言するけど、そう思い通りになるはずがない。


「どうしてそうなるんだ木ノ瀬。」

「どうしてって、先輩が危ないからに決まってます」

「そういう意味じゃない。それに、お前だって充分危険だろう。俺が行く」

「あれ?宮地先輩は危険じゃないんですか?」

「な…っ!?」

「まあまあ、2人とも落ち着いて。」


不毛な言い合いをする2人の間に部長が入る。
いつもの光景だが、この2人を黙らせる部長はやっぱりすごいと思う。
そう言うと、決まってそんなことないよ。と笑うけど、実際木ノ瀬も宮地も部長には一目おいているっぽいし。


「集合場所は職員寮前にしよう。ね?」


その言葉を合図に、その場は一時解散。
20時30分に集合ということになった。

彼女と一緒に星を見る。その事実だけで舞い上がってしまいそうだ。




☆★☆★




「…早く来すぎた。」


約束の時間までまだしばらくあるのに、いくら楽しみにしているからってこれはないだろう。と、職員寮の前にあるベンチに座ってみんなを待つことにする。

彼女と星見るのも、もう何度目かになる。
夜空を見上げる彼女の瞳はいつも、そこに映る星たちと同じくらいキラキラ輝いている。
なんて、口に出して言えるはずないけど。


「木ノ瀬じゃあるまいし…」

「木ノ瀬君がどうしたの?」

「夜久っ!?い、いつのまに…!」


1人物思いに耽りながら空を見上げていると、突然した女の子の声。
いつの間に来たのだろうか、前を向くと彼女は不思議そうに俺を見つめていた。その視線に、ドキっとする。


「今来た所だけど、白鳥くんはやいね」

「え、あ、へ、部屋にいてもすることなかったからさぁ」


本当の事を言うのはなんとなく恥ずかしくて無駄に誤摩化してしまう。普通ならバレてしまうだろうけど、夜久は鈍感だから大丈夫だろう。


「夜久こそ早いじゃん、まだ30分くらいあるし」

「えっ!・・・結構暗くなってるから待ちきれなくて・・・」


あはは・・・と笑う彼女がかわいくて、熱い顔を隠すように空を見上げた。屋上庭園や展望台程ではないけれど、それでもまるで振ってきそうな星が視界を埋める。
1年もこの景色を見てきたけれど、まだまだ飽きそうにない。この、綺麗な星が俺と彼女を繋いでくれた。


「綺麗だな・・・」

「うん。あっ!デネブ!」


俺につられるように上を見上げた彼女は、吐息を零すように同意する言葉を口にした。それからまるで、宝物を見つけたかのような声を出すと、小さい指で満点の星空を指差した。


「アルタイルに、ベガ…!」

「夏の大三角形だな」

「うん!白鳥君は見つけられるようになった?」

「うっ・・・あ、当たり前だろー!さすがの俺ももう覚えたし、去年夜久が教えてくれたんだろ?」


笑顔で痛い所をついてくる彼女は、幼なじみが一緒だとか聞いたけど、女1人で入学してくるだけあって案外強かだったりする。なにか言い返したい所だったけど、楽しそうな表情を見て、そんな気も失せてしまった。

俺たちは、去年の夏もこうしてみんなで星を見に行った。星を探すのが苦手だった俺に、彼女はどこか楽しそうに、夏の大三角形を指でなぞりながら教えてくれた。


「そうだったね。懐かしいなぁ…もう一年になるんだね」


俺はその時にやっとで夏の大三角形を覚えた・・・なんて宮地にバレたら視線で殺されそうだ。


「そうだなぁ。あの時の夜久おっもしろかったよな」

「わ、忘れて!ていうか、いつまで覚えてるの!?」

「あははまだしばらくは忘れないと思うぞ」

「もう!白鳥君のいじわる!」


ぷっくり頬を膨らませて怒ったように口を尖らせるそんな彼女をやっぱり見てられなくて、また上を向いた。満点の星空に感謝だな。

(あ、彦星。)

見上げた瞳になぜかきらりと輝いて見えた。天の川を挟んで反対側にいるはずの織姫は、やっぱり俺には見つけられそうも無い。
こんなに晴れているのに、2人は出会う事はないのだろうか。


「なあ、夜久・・・」

もし、想いを告げたらどんな顔をするんだろう。
ただ困らせてしまうだけだろうけど、ふと、そんな事を思う。
その時がきたとしたらきっと、驚かないで聞いて欲しい。

「どうしたの?」

「おれ・・・「夜久さんと白鳥君?早いね」

「「部長!」」


想いを告げるつもりはなかったけど、なんとなく部長に邪魔された気がした。
それを皮切りにみんながやってきて、2人でいられる貴重な時間は終わり。


「先輩、白鳥先輩にへんなことされませんでしたか?」

「なんだとー!」

「ぅえ!?さ、されてないよ!」


ひょっこりと現れた木ノ瀬に隣をとられてしまった。
反対側にはいつの間にか宮地が陣取っていて、後ろには部長が。


「まったく・・・お前には警戒心が足りないな」

「宮地君も木ノ瀬君もあんまり虐めたらダメだってば…でも、宮地くんの言う事も一理あるよね。君はもう少し気をつけないと、女の子なんだから」


木ノ瀬以外はこれが(多分)天然だから困る。
ここまでされるともう俺の出る幕は無くて自然と弾き出されてしまった。
ちくりと痛んだ胸の痛みを
何か言いたかったけど、3人に囲まれて楽しそうにしている彼女を見ると、何も言えなかった。