【stsk】君の知らない【白鳥→月子】
「残念だったなー白鳥、せっかく夜久と一緒にいたのに」
「うっせーいいんだよ!別に2人きりになりたいとかじゃないし」
彼女の人を見る視線が1人だけ違う事に気付いたのはいつだっただろう。
だから、本当は告げてしまいたい言葉が届かない事もわかっていた。
言わないのは、彼女を困らせてしまうから。
だけど理由はそれだけじゃなくて、はっきりダメだって言われるのが怖かったから。
そう思って蓋をすればこの気持ちが消えてしまえばよかった。
「それにしても、七夕に晴れてよかったなー」
犬飼が屋上庭園に向かう途中空を見上げながらそう言った。
意外とロマンチックなのか。いや、この学園の生徒はみんなそうなのかもしれない。
「そうだな。なあ犬飼、織姫ってみつけられるか?」
「は?」
見上げた夜空にやっぱり織姫は見当たらなくて、俺は彦星にはなれないけどさっきより寂しい気持ちになる。
「いや、彦星は見つけたんだけど、見つからなくってさ」
そう犬飼に言いながら、3人に守るようにして囲まれている彼女を盗み見て、ちくちくと胸の痛みが増していく。
彼女の彦星になれると思った事はないけれど、あの笑顔がさっきまで俺にだけ向いていたのに・・・なんて彼女の笑顔を見て、ズキンとひと際痛んだ胸の痛みに気付かない振りをする。
中学の頃に特定の女の子をすきだと思った事がないわけではなかった。でも、きっと人をすきになるってこんなに苦しいものなんだって、気付いた。
本当は、あのベンチで夜久のとなりで、できれば2人きりで、ずっと一緒に星が見ていたかった。それだけで充分。言いきってしまうのは嘘になるけど。
そんなささやかな願いも叶わない、現実はこんなにも残酷だ。
そんなことを初めて痛感したのは1年前の夏だった。
その間に彼女へこの気持ちは二度と届かなくなってしまった。
伝えられなかった気持ちも言わなかった言葉も、全部に蓋をしていつか綺麗な思い出として眺められる日が来るのだろうか。
あの日君と2人見た最初で最後のあの星空を忘れはしない。
「白鳥君!こんなところにいた~」
「夜久、どうした?」
「最後に、みんなで写真撮ろうって言ったでしょ」
「あ!悪い悪い…もうみんな集まってるのか?」
「うん!」
一年前とずっと変わらない笑顔を見て、色んな事を思い出した。
2年間だけだったけど、怒って泣いて、笑って…ころころと変わる彼女の表情の全部がすきだったんだ。
じわりと熱くなった目頭を冷ますように、この想いはずっと俺だけの秘密にしよう。
叶わない恋は辛いけど、君と過ごした思い出は、君を想った月日は捨ててしまう事なんてできないから。
「夜久っ」
せいいっぱいの勇気を振り絞って、名前を呼んだ。
最後に一つだけ、どうしても伝えておきたい言葉があったから。
振り向いた彼女に笑顔を向けて息を吸い込んだ。
「いままでありがとうな!」
END
作品名:【stsk】君の知らない【白鳥→月子】 作家名:しいば