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加賀屋 藍(※撤退予定)
加賀屋 藍(※撤退予定)
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雨のち曇り

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天から降り注ぐ細い細い透明な糸が、町を白く煙らせる。

頭の先に落ち、指先から滴る水は綱吉から失われた体温の分、温かい。
温い水に浸かりながら、覚束なく歩く姿は薄気味悪い程、俺の現状に見合っていた。
……泣きそうになるほど。

城へと向かい、頼りなく歩を進めてきたものの、雨はまだまだ止みそうにない。
人通りのない、寂れた商店街の中、閉まっている店の軒先に立ち止まり、綱吉は雨宿りをすることに決めた。

ピチョン、ピチョン。
軒から落ちる雫を手持ちぶさたに眺めていると、通る声が鼓膜を打った。
「何してるの?沢田綱吉」
「……ヒバリさん」
見れば、先程までの綱吉と同じく、傘をささずに立っている雲雀の姿がそこにあった。
なかなか人の通ることはない道なので、綱吉と同じく何処かへ向かう途中だったのだろうか。
こんなところで知人に会うのは想定外で、咄嗟に取り繕えず、泣き笑いというには少し泣きの要素が強い顔で彼を見てしまった。彼は嫌そうな顔をした。
確かにこんな顔、雲雀は一生しないかもしれない。
彼には理解できない感情を抱いている綱吉は、酷く気味が悪く映るのだろうか。
(だってヒバリさんは俺とは比べ物にならないほど強いから)
ずきりと痛んだ胸を無視して、綱吉は雲雀の問いに平然を装って答えた。
「ちょっと近くまで出掛ける用事があってその帰りなんですが……降られちゃいました」
「そう」
何年も互いを知っていて、今もこうして対面しているというのに俺たちにはあまり話せるような共通の話題がない。
そもそも、共通点がないからだ。
こんな路地裏で、少し前に降りだした予定外の雨にずぶ濡れになったいるのだけは一緒だったけれど。
実際、イタリアの天気予報はあまり当てにならない。今日の予報では日中は晴れると言っていたのに。
こんなとき日本の、時刻まで正確な天気予報が懐かしいと思う。
しかし、意図的に傘をさしていない二人でも、向こうは様になり、こちらはただ傘を忘れてきた阿呆に見えた。
それでは結局、一つも共通点などないのかもしれないと苦い笑いが込み上がる。

「凄い、雨ですね」
「そうだね。鬱陶しい」
「軒先、入りませんか?」
「ここは君の場所じゃないはずだけど?」
「俺も借りてるので、ついでにです」
「ついで、ね」
そう言うと、彼も綱吉に倣って見知らぬ軒下に避難することにしたらしい。
すたすたと軽い足取りで近づいて、綱吉の横に並んだ。
「………」
「………」
そうして二人でまた、軒下から降り続く雨を見る。
綱吉が話しかけない以上、雲雀は話を広げようとしない。
会話を楽しむ習慣が無いからだろう。綱吉に合わせて、答えてくれるのが精々だ。
それですらたまに億劫になるのか、無言で返されることもあるけれど。
「ヒバリさんはどうしてここに?」
「馬鹿を追い掛けて来たんだよ」
水の滴る髪を掻き上げた雲雀が、ジャケットを脱ぎながら答えた。
黒いスーツが重そうなほど水を吸っていて、袖から水が地面へ落ちていくのが見えた。
どうやら雲雀もまた、雨が降り始めても休まず歩き続けていたらしい。
「馬鹿、ですか?」
馬鹿というと彼の嫌いな、それはもう、見つけたら即座に咬み殺さずにはいられない草食動物のことだろうか。
それとも身の程知らずにも雲雀に逆らった誰かだろうか。
少し間が開いていたが、俺は聞き返した。
雨音が言葉の間を繋いでいて、しばらく無言でいたことも気にならない。
「そう。馬鹿を、ね」
「……そうなんですか」
しかし、同じ言葉が繰り返されただけで、反応に困り、綱吉は曖昧に笑った。
すると不満だったのか、珍しく雲雀から問い掛けてくる。
「聞かないの?」
「へ?」
「どんな馬鹿かって聞かないの?」
「どんな、馬鹿なんですか?」
正直に繰り返すと、彼は呆れた顔をした。
だが、こちらを向いている少し高い位置にある顔は、雨に濡れたことで艶を増して見えるくらいで、そんな表情をしても全く魅力は薄れない。
「……少しは考えて聞けば?」
「すみません」
すぐに謝ると「いいけどね」と雲雀はまた前を向いた。
止まない雨を見ながら、綱吉に説明する。
「僕が追ってきたのは周囲の反対を押しきって、たった一人で敵対した元同盟ファミリーの説得に乗り込んだ何処かの馬鹿でね。
大方の予想通り、説得は失敗したらしい。そのまま取り囲まれて殺されそうになって、やむを得ず泣きそうな顔で全員伸してきたんだろうね」
「っ…!」
「挙げ句の果てに、雨に降られて何処かの軒下で帰れなくなってる。そんなどうしようも無い馬鹿だ」
綱吉は何も返すことができなかった。雲雀の黒曜石のような瞳がじっと綱吉を見る。
「……草食動物だって、雨の降る時はどうしていればいいか知ってそうなものなのに。沢田綱吉、君は草食動物以下なの?」
まじまじと問われて、綱吉は小さくなった。
「……すみません」
「反省がなきゃ、謝罪に意味はないよ」
「……はい」
「次があっても、やるんでしょ?」
「はい」
「だったら、謝らなくても同じでしょ。綱吉、全く反省しない馬鹿は誰?」
「俺です……っ」
綱吉の顔を、熱い雫が流れ落ちる。
おかしい。確かに雨は降り続いているけど、ここはもう濡れないはずなのに。

先日、同盟ファミリーの裏切りがあった。
ボンゴレに対する下剋上を狙ったものではなく、他のファミリーに弱み……ファミリーの命を握られての苦渋の決断だったらしい。
投降を説得しようと提案した綱吉は、ファミリーからの反対を受けた。
潰される恐怖に武装した相手には最早聞き入れられない話だと。
それでも説得を諦めたくなくて、綱吉は単身、元同盟ファミリーへと出向いたのだ。裏切りへの報復におののく彼らに投降を迫るために。
しかし、向けられたのは過剰な畏れと銃口だった。
言葉を聞き入れられることなく、射殺されそうになった綱吉にはもう、彼らを力で制するしかなかった。飛び出した綱吉を止めようとしたファミリーが、当初から示唆していたように。
投降を捨てた彼らに残されたのは、ボンゴレに裏切りを向けたファミリーがどうなるかを、示す役割だけだった。すなわち、見せしめだ。
綱吉は拳を奮った。
無力な自分を噛み締めながら。

噛み殺せない嗚咽が、勢いを増した雨音に紛れて、雲雀の耳まで届かないことを綱吉は願った。