ヤマト
知りえたことはすべて報告しあっていたし、昔も今も――今は若干、男が細いかもしれないが――体格に差はなかったから、気付くのは難しかっただろう。現に二人で中国に会ったときに、中国は目を見開いて仰天していた。しかし二人で一人を演じていること、相手を自分と同じだと思っていることなどを全て話すと、中国は了解してくれた。協力もしてくれたし、それは感謝している。
けれども彼の、痛々しい視線はそのときに始まった。特に、男と彼がお互いのことをまるで自分のことのように話すとき、それは酷くなった。
一度聞いたことがある。どうしてそんなに悲しい顔をしているのですかと。
彼は、確かこう答えた。お前らは、二人あるよと。
そのときは意味が分からなかったが、今になってようやく分かった。危ういのだ、この関係は。どちらかがいなくなったら共倒れしてしまいそうな、そうだ、人という漢字そのものかもしれない。一方がなくなれば、砂の城のように簡単に崩れてしまうだろう。けれども今更それをどうにかすることは出来ない。自分たちは、あまりにも多くを共有しすぎた。
黙り込んだ男から目を逸らし、少女は俯いた。最初と同じように、男の膝を枕にして寝転がる。
「主、淋しい?」
「淋しくないですよ。彼もいる、あなたもいる。少なくなったといっても、まだこの家には他にもいるでしょう」
家の中のもの以外とは、そういえば全く会っていないけれど。
少女は昔の兄とよく似た眼差しを一瞬見せて、そっと目を閉じた。握ったままの小さな拳が一瞬震えたけれど、それは見なかったことにした。
「先主、小童は寝たのかい」
「ええ」
「全く煩い女だわさ」
きちんと足を拭ってからひらりと縁側に飛び乗ると、猫は最初と同じように彼女の着物を枕にして寝転がった。二股に分かれた尻尾でゆるくニ、三度地面を叩く。
「でもねえ先主、あたしたちもこいつも先主のこと、大好きで仕方が無いんですよ」
分かってくださいなと猫は言って、金色の目を閉じた。その眉間の辺りを擽るように撫でて、男は目を伏せる。
「ええ、分かっていますよ」
誰もかもが自分を思って、大事にしてくれている。それが分かっているからこそ、もう自分は要らないのではないかと薄々気づいてはいても、まだ浅ましくここに居座っているのだ。この手が帰ってきた彼を迎えてやれる限り、消えることは出来ない。
けれども、と男は稀に思うのだ。
もう消えて楽になってしまいたいと思うのは、ひどい裏切りであり、エゴだろうかと。
春風が慰めるように吹いた。もうすぐ「日本」が帰ってくる。