king of solitude
不自然な言葉の切り方に波江はやっと臨也の横顔を見やる。相変わらず無表情だけども。
「それに?」
少しだけ、臨也の目が言葉を探して視線を彷徨わせた。何を言いかけていたのだろう。
「まあそれにさ、わっざわざあの平和島静雄に会おうとするのが俺だけーなんて、シズちゃんにはこの世で一番の侮辱だと思うんだ。俺は、徹底的にシズちゃんを苦しめて、ムカつかせて消すと決めたしー」
いつもの口調に戻っている。言いかけた言葉を、隠そうとしているのかもしれない。
その事は気にするだけ無駄だ。聞いても話す男じゃない。
「侮辱ねぇ」
「彼は孤独な人その代表格だからね。いわば孤独の王様だよ。あんな短気で暴力野郎だから他人が寄り付かない。寂しい人だ。そこに親の敵より憎いと言わしめる俺しか会いにいかない…最高に多分、侮辱だよ」
「はいはい、そうね」
「お判りいただけたならいいや。あ、明日さ、オキシドール買って来てくれると嬉しいな」
そう言って少し腰を浮かすとズボンのポケットから財布を出し、数えもせず紙幣を波江に寄越した。
「ダースでいいの?それとも包帯やらもセット?」
これからもこうして消費するつもりなのでしょう、呆れた。
「一つでいいよ、あとは残業代。おつかれさまー」
そう手をひらひらさせて笑うと、波江が紙幣をしまう前にソファーにまた座った。
何かを言おうと思ってたのに、引っ込んでしまった。きっと、彼の機嫌を損ねるような事だ、忘れていい。
割りと世帯数の多いビルなのに、嫌に静かな廊下を渡り、高層に適したエレベーターを待つ。
聞き流していたはずの臨也の言葉は、今日はやけに残っている。・・・・珍しい程感情が込められてたからか。
高速で地上に降り行く間、耳鳴りの事と臨也の言葉を考える。
子供過ぎて笑えてくるのに、不可解な二人。
そして何より、孤独な王様とは臨也にも言える。それを彼は自覚しているだろうか。
地上から離れた彼の城は、彼がいる池袋の街明かりを目前に捉えているのに。
作品名:king of solitude 作家名:ヨモギ