Snowdome
「・・・お前の願いはなんだ?」
呪文のように繰り返される言葉に、少年の意識が僅かに歪んだ。
鼻腔を突く血の臭い、目に映る鮮血で汚れた掌。
受け入れたくない真実――。
「・・・・・・――ハレルヤ?」
まるで何か楽しい事を思い付いたような明るい口調で呼びかけると、紅く染まった腕を頭上高く掲げた。
「お願いハレルヤ・・・、雪を降らせて」
掲げた腕の先に空が広がっているわけではない。
閉ざされた空間、そんな場所に雪を降らせることなど出来よう筈もない。
けれどもハレルヤは、造作も無い事のように了承すると、ふわりと腕を左右に振った。
するとその空気の流れに沿うように、白い粉雪がゆらゆらと舞い落ちてきた。
「・・・雪だ。・・・雪が降ってきたよ、ハレルヤ・・・」
掌に落ちた粉雪は白から淡い桃色に変わり、またその上に重なるように粉雪が覆いかぶさると、見る見るうちに汚れた掌は純白へと姿を変えた。
紅く染まっていた室内もペンキで塗り替えたように白くなり、血の臭いも降り積もった雪に覆われて消えてしまった。
静かに舞い落ちる粉雪が、この空間を何も無い白い世界へと変えてゆく。
「・・・綺麗だね、ハレルヤ」
少年はうっとりとした声音で呟くと、ガクリと力を無くしたようにその場にくずおれた。
「お前の目にそう映っているなら、それでいい・・・」
ハレルヤの金色の瞳には、少年が怯え震えていた光景そのままが映し出されていたけれど、恐怖に身を竦めることなどなかった。
全ては幻――。
雪が降る場面をイメージし、その映像を少年の脳に送り込んだ目眩し。
気が狂れる寸前の相手だからこそ容易くかかるトリック。
「・・・お前の願いは全て叶えてやる・・・。
その代わり、オレのたった一つの願いだけは叶えさせろ・・・」
穏やかな顔で眠る少年に語りかける。
「――アレルヤ・・・、お前と一緒に生きる」
ただそれだけの願い。
それを叶えるためだけに繰り返す殺戮。
ハレルヤはアレルヤに意識を同調させた。
深々と降る粉雪が、静かに辺りを白くしてゆく光景が目に映りはじめる。
そんな様が綺麗だと感じたのは、きっとアレルヤのせいなのだろう。
ハレルヤはアレルヤを抱きしめると、冷たくない雪の上にその身を横たえた。