ゆめのおわりex
2.
「帝人先輩。」
学校からの帰り道、正臣たちと別れた後を見計らっていたかのように、青葉が帝人の行く先に現れた。
すっかり怪我が完治した青葉は、いつも通りに名前を呼んで、にっこり笑った。
「青葉君…」
あれから、青葉とは全く会っていなかった。
もちろん、ブルースクウェアの面々とともに、ダラーズ内の粛清活動もしていない。
ダラーズを綺麗にする、なんて、独善的で途方もないことを行うより、
自分の目の届くところにいる大切な人たちとの生活を精一杯守る、帝人はそう決めたのだ。
これが、青葉たちにとっては身勝手極まりない結論だというのは、分かっていた。
だから、なんと声を掛けたものか困って、とりあえず、思いついたことを口にする。
「怪我治ったんだね。良かった。」
普通の後輩に対するような口調で、言う。
「ええ、おかげさまで。」
青葉は、やはり、本心の見えない微笑を浮かべて、そう言った。
それからしばらくどちらも口を開かず、居心地の悪い沈黙が流れる。
「あの、あおばく」
「先輩。」
沈黙に耐え切れなくなって口を開きかけた帝人の言葉を遮って、青葉がもう一度名前を呼び、
すいっと帝人の眼前に迫った。
自然な動作でその小さめの手が帝人の頬に添えられ、口付けようと唇が近づく。
「っ!!」
帝人は、すんでのところでその肩を押さえ、青葉の行動を阻んだ。
きょとんとしたような表情をする青葉に、帝人は抑えた声で、告げた。
「ごめん、青葉君…。
もう君とこういうことは出来ない。」
今の僕には、君とのこんな行為を許容する理由がないから。
その言葉に、青葉は静かに笑った。
「ひどいひとですね。先輩は。」
その笑いは、いつもどおりの皮肉を含んだもののようで、けれど、本当に傷ついているようにも見えた。
「うん…。ごめんね。」
何故かは帝人自身にも良く分かっていなかったが、本当に申し訳ないことをした気がして、心から謝った。
そんな帝人を見て、呆れたような顔をした青葉は、はあ、と少し溜息を吐く。
だが、しばらくして顔を上げると、いつも通りににっと笑って、言った。
「かまいませんよ。
紀田先輩が帝人先輩の全ての欲求を満たして、受け入れられるなんて思えませんからね。
嫌になったらいつでも僕のところに来てくださいね。」
今度こそ、本当に好きになってもらえるようにがんばりますから。
そう愉しげに言う青葉に、帝人は青葉の言っていることが理解できなくて、慌てる。
「え、えと青葉君??」
そんな帝人の反応に、ますます青葉は愉しげに笑った。
遠くでまた自販機が空を舞い、巻き込まれた人々や野次馬のあげる叫び声が響いていたが、今日も、池袋の街は平和だった。