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夏の終わり

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だが、それは正当な報酬だし、他の仲間達に言えばきっともっと要求しても罰は当たらないと言われるか焔は京一に甘すぎると溜め息を吐かれるほど優しい見返りのはずだ。
それをきついと思われるだけではなく、愛が感じないまで言われるとは…。

ー軽口で言ったかもしれねェが、言っていいこととまずいことを把握させねェとな。

 焔はにやりと笑いながら頷くと、そのまま右手で拳を作り、それをゆっくりと後ろに引いた。
 今は2人とも座り込んでおり、立ち上がらないと足技の流星脚や脚も使う八雲は使えないが、立ち上がるのが面倒くさいので拳だけでもいいだろう。
ただ殴りだけではなく、氣を使えばかなりのダメージも行くはずだ。
 ぐっと後ろで握りこんだ拳に氣をためようとしたが、焔が何をしようとしているのかにようやく気がついたのか京一の顔から血の気が一気に引いていくのがわかった。
 焔に言ってはならないことを言ってしまったことに気がついたのか、それとも怒らせたと思われたのか京一の体が思い切り焔から遠ざかるように後退っていく。
ざざざと音が聞こえるくらい素早く焔から後退ると、京一は袱紗を持っていないほうと手を伸ばし、自分の顔の高さまで持っていった。
そしてその手を大きく広げると焔に静止を求めるように高く掲げた。

「ちょっと待てひーちゃん!技はやめとけ!技は!」

「あん?どっかのバカが人の愛を疑うもんだからこのくらいしねぇと気がすまなくてな。大丈夫。殺さない程度に抑えておくからな。」

 焔はにこやかに微笑んでからさらに拳に氣を込める。
ぐっと握りこんだ拳を京一に向かって突き出そうとしたとき、後退りした格好のまま固まっていた京一が動いた。
そのまま勢いよく体を起こし、崩れていた足を引いて正座をするとそのまま焔に向かって頭を下げた。

「ひーちゃんの愛を疑って悪かった!だから技はマジで勘弁してくれ!」

 焔の技の威力を身をもって体験しているからだろう。
 本気で慌てた様に土下座をしている京一を見て、焔はすぐに拳に氣を送るのをやめた。
 そしてその拳を開いて何度か軽く振る。
 本気で人のことを茶化したことを後悔させてやろうと思ったのだが、土下座をさせることが出来たのでよしとしようと焔はうんと頷いた。

「ったく…わかりゃいいんだ、わかりゃ。」

 頷いた後にそう京一に向かって言ってから勢いよく立ち上がる。

「アイスも食い終わったし、そろそろ帰るな。
こんな暑いところにいつまでもいるよりもとっとと家に帰って、クーラーの下でのんびりとゲームでもしていてぇしな。」

 のんびりと冷たいものを食べている間はまだ熱さも我慢できるのだが、食べ終われたまた少しずつ体に熱が溜まっていく。
 もう暑さが一番ひどい時間ではないのだが、アスファルトに蓄えられた熱がじわじわと上へ昇り、夕方でも昼のような暑さに感じてしまう。
そんな中にいるくらいなら早く自宅に帰ってゆっくりと涼んだほうがいいに決まっている。
もう補習も終わったのだからいつまでもここにいる必要はないだろう。
そう思って立ち上がったのだが、焔の言葉を聞いて京一もその場から勢いよく立ち上がった。

「ひーちゃん、俺もいってもいいか?」

「あ?どうせお前は人が嫌だって言っても来るんだろうが。
…いいけど、今日の飯はお前が作れよ。」

 人んちに来るんだからそのくらいはしろよとばかりにそう告げると京一は溜め息を一つ吐いてから頷いた。

「へいへい。そのくらいはやりましょ。
 今日の飯はなんでもいいな。」

「なんでもいいけど、ラーメン以外な。ラーメンは今日の昼も食ったしな。
それ以外ならなんでもいいや。」

「ラーメンはダメなのかよ…しゃぁねェな。じゃぁ帰る前にどっか店に寄って行こうぜ。で、そこで今日食うもん考えればいいだろ。」

「おう。じゃぁ帰ろうぜ。」
「了解。」

 そこまで言ってからお互いに頷きあい、京一と焔は手に自分の荷物を持ち、ゆっくりと歩き出した。
作品名:夏の終わり 作家名:小島泉