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みとなんこ@紺
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One-side game

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その後、文字通り網で一網打尽にした子供達を平等に一発づつ鉄拳制裁して、エドワードはようやく手元に戻ってきたトランクを置いて一息ついた。
子供達は既に散り散りに解散している。ここに残っているのはエドワードと、
「すげーなぁ兄ちゃん。オレ錬金術って初めて見た!」
ロープを網に錬成しての捕り物の一部始終に、何やらいたく感動している先程のパン売りの子供、―リュカという名らしい―だけ。
遠く、汽笛の音がする。
これで昼のは最後、とさっき言っていたアレだろうか。
「なぁ、ほんとにイースト行きの汽車ねぇの?」
殆ど目的地以外に下車する事がないのであまり気にした事がなかったが、もしかしたらそういった駅はいくらでもあるのかもしれない。
一抹の希望を載せ、確認の意を込めての問いかけは、うん、とあっさり頷かれてた事により、玉砕。
「午前は何本かくるんだけど、昼間はさっきのが最後。次は日が落ちるまでこないよ」
だからオレも今日はもうあがりー。
対して、エドワードはがっくりと肩を落とした。
がらがらと未来予想図が崩れていく。・・・まぁ、アルフォンスと合流して大佐からいただくものをいただく、は変わらないのだが、およそ1日ずれるかと思うとやるせない。
確かにペオリアは距離的にはイーストシティからそんなに離れてはいない。目と鼻の先、とまではいかないが、しかしこんな直前で止められるとは。
「…ったく。とんだ寄り道だぜ」
「いーじゃん。ラッキーだよ。ふつーそんな盗られたのなんて返ってこねぇし」
だって走ってる列車止めてまで追っ掛けてくるやつなんていないし。
「・・・あいつら、いっつもこんな事してんのか?」
置き引きしていった子供たちは皆自分より確実に下だったと思う。…確かに、もっと治安の悪い街などでは、子供の置き引きやスリもいる。何だか長閑な、こんな湖畔の街にはそぐわない気がする。そう気になっていた事を問い掛ければ、リュカは僅かに表情を曇らせた。
「わかんない。前は皆そんな事しなかった。・・・でもオレもそのうち人のこと言えなくなっちゃうかも」
「え?」
「ねぇ、エドは夜までヒマだろ?うち来ない?」
ぱ、と純粋な好意と好奇心に満ちた顔で見上げてくるリュカの表情に曇りはない。ただ、さっきの一瞬の表情は心の何処かに妙に引っ掛かった。
「折角だけどなー…そんなゆっくりしてらんねーんだよな」
「えー、でもさ、列車は夜になるよ。それまでヒマだろ?」
「…折角ここまで来たし、どっか図書館みたいなトコないのか?」
「図書館?本、見たいんだ?」
「ああ」
「それじゃ、ホントにうちおいでよ!オレの家、本の山だぜ!」
いや、たぶんいくら本が多くてもオレが読みたい本って系統が特殊だから・・・なんていう説明は子供には通じる訳もなく。うーんと唸っている間に、じゃあ決まりーとリュカは勝手に手を引いてくる。
完全に懐かれたらしい。意気揚々と手を引く子供はずいぶんと張り切っていて、今更手を引っ込める事も出来ず。引かれるままにまずはパン屋に寄って木箱を返して今日の稼ぎを貰ってから、リュカの家だという所に辿り着く頃には、もういっか、今更ちょっとくらい、とだいぶ諦めもついてきた。
「ここだよー」
典型的なアパートの一室。腰のチェーンに繋いだ鍵で鍵を開け、どーぞと言われて足を踏み入れたその部屋の中は、予想以上に凄い事になっていた。
「何だこりゃ…!」
部屋の中に溢れかえる本、本、本。
ダイニングやら廊下やら関係なく、凄い量の本に埋め尽くされている。部屋がどのくらいあるのかは知らないが、全部集めれば立派に古本屋でも開けるのでは、というくらいの量だ。
一般家庭でこれだけの量を見る事になるとは思わず、呆気に取られながら眺めていると、適当にその辺座っててーと奥からリュカの声がした。
・・・そうは言われましても。身の置き所に困る。
「…これ、床大丈夫なのか?」
「『だから部屋を一階にしたんだ』って父さんが言ってたけど」
「なるほど」
エドワードにとってはある種見慣れた光景だが、リュカの父親は錬金術師ではないという。確かにざっと見てみると錬金術書の系統は見当たらない。しかし見える範囲には比較的化学系の本が多いような気がする。
なるほど、確かに本の山だ。いったい何の職だったらこんな事になるんだろう。
物を置くスペースのないテーブルの上の一冊の本を手に取れば、それは幼馴染みの家で見た事のある基本的な医学書だった。その横には科学の実験のレポート。
ますます判らない。
「ジュースこっち置くよ」
「あ、あぁ。サンキュ」
慣れているのか、椅子の上に積んであった本を退けてリュカがテーブルについたので、それに習って手近な椅子の本を退けて座る。
「散らかっててごめんね。片付けちゃいたいんだけど何処に置いたら良いかわかんないんだ。父さんしばらく帰ってなくて」
「しばらく帰ってない…?」
うん、とリュカは一つ頷いた。
ぷらり、と床に着かない足が揺れる。
「…父さん、凄い薬の研究してるんだ。胸が苦しくなるのをなおすんだって。・・・だから仕事が忙しくてきっと帰って来れないんだ」
「…医者じゃないのか?」
「お医者さんじゃないよ。研究所って所に行ってる。・・・月に1度、その仕事先の人っていう人が来て、これでご飯食べなさいってお金くれるんだよ」
・・・って、ちょっと待て。
「リュカ、お前それいつからだ?」
一度顔を上げたリュカはしばらく記憶を辿っていたようだったが、やがて小さくかぶりを振って俯いた。
「・・・わかんない。季節は一つは前だった」
「何だそれ・・・」
どういう状況だ。確かに出稼ぎのように仕事で家を空けるのは珍しくないだろうが、リュカは母親を亡くしてる、と言っていた。それなのにこんな小さな子供を一人ほったらかしにしておいて、父親は研究所に入り浸り、なんて。
知りもしないリュカの父親と、背を向ける影が重なる。
ふ、といつかの遠い記憶が蘇りかけて、エドワードはテーブルの下で強く手を握り締めた。
僅かな沈黙の後、でもね、と明るい声でリュカは、黙り込んだエドワードに向けて笑った。
「そんなに寂しくないよ。父さんは時々手紙をくれる。ごめん、もうすぐ帰れるだろうから、もう少し待っててって。あとオレ兄弟いないけど、街の皆とは仲良しだし、隣のおばさんもパン屋のおっちゃんも皆優しいし」
それに、と揺れた瞳でリュカは顔を上げた。
「父さんは一生懸命人のためになる良いことしてるんだから、オレだってちょっとくらい我慢しなきゃ」
「リュカ・・・」
表情に一抹の寂しさはあっても、リュカの表情は明るい。
父親を信じているからだろう。信じて、そして帰ってくるのをじっと待っている。
ただ、ずっと染みついてきた父親への根強い不信感から、何と言ってやったら良いのか、告げる言葉が見つからない。
エドワードは手を伸ばして、小さい頭をただ撫でてやった。
「へへ」
いっぱしの口をきいて強がりを言っても、まだ子供だ。やはりこの家に一人は寂しかったのだろう。擽ったそうに目を細めて笑うのが、何だか切なくなってくる。
「そうだ、本見る?奥にもっとあるよ」
「まだあんのかよ。いつかほんとに潰れるぞ、ここ」
作品名:One-side game 作家名:みとなんこ@紺