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二次創作オールジャンルの短い話のまとめ。(永遠に執筆中)

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『幸福ってなんだろう』ヴェル風



 床は元の色がわからないくらい塵埃で汚染され、窓ガラスは壊れて剥がれ落ちた所が少々見受けられるのに対して、まるで親が子を慈しむような目線を向けている青年がいた。
 鴉の濡れ羽をした絹のようにしなる髪を背中で一本に三つ編みを施して、朗らかそうな表情とは裏腹に鮮やかな緋色のチャイナ服を纏っていた。
「なんだ、風」
 後ろにいたのに気付いたのだろうか、部屋をみすぼらしく改造してしまった男が振り返らずに声をかける。名はヴェルデ、緑の、という名前に相応しくあちらこちらへと広がった髪と顎に剃り残された髭は緑色をしていた。
「相変わらず辛気臭い所に居るんですね」
 あたりを見回していた風は触られていない本に目を留めたらしく埃を払うように背を撫で、その指を口元へ近付ければふっ、と息を吐いて空中へと散らしていった。
「別に私はお前に来てほしいなど言った覚えはないのだが?」
「ふふ、面白い事を言いますねヴェルデ。ただ私は来たいから来ているだけです」
「……お前、イイ趣味してるな」
 呆れたような声を出せば集中力が切れたのか風との話に専念しようとか、くるりと椅子を半回転させて下から舐め上げるような視線を投げ掛けはじめた。一方品定めするように見られているというのに彼は相変わらず朗らかな笑みを浮かべヴェルデを見つめ返している。
「得体の知れないモノを作る人には負けますよ」
「…………はっ、どの口が言っているんだか。実験体にでもされたいのか?」
 立ち上がったヴェルデは自分より若干小柄な風の顎を掴んでぐいとこちらを向かせるように固定すれば吐息がすれ違うくらい顔を近付けた。口だけを器用に吊り上げ嘲る表情を浮かべながら。
「それもいいかも知れませんね」
 覆い被されて視界も危ういというのに風は冷静を貫き通していた。まるで負けず嫌いな子供がにらめっこしているのかと思うほど黒い眼でめがね越しに狂気で彩られた緑の光彩を見続けて。
「っく。……、最高だ」
「なに、笑うんですか。私は本気なのに」
「自殺志願からは程遠いと常日頃から思っていたのだが、それは私の思い違いらしいな」
 ふ、と笑ってから手を離せば興味が失せたと言わんばかりに机に向かい、薬物をこぼしたのか古いのかわからないが黄ばんだ分厚い本に手を伸ばしては白い紙に数式を写していた。
「だって実験で死ぬという事は貴方に殺されるのでしょう?」
 風は小さく首を傾げれば頬を微かに赤らめて微笑んでいた。一方のヴェルデはそれと正反対に白く冷たい視線を紙っきれに向けながら一心不乱にペンを走らせていたのだがある瞬間に手を離して机にと落とした。
「まさか、そこまでだとは露ほどにも思っていなかった」
「それはどうも。私もそう言われると心底光栄です」
 ヴェルデの手の下のプリントの最後には、生存率ゼロ、という答えが出されていた。