さあ覚悟を決めなよ
手入れをしているらしく、整っていてすらりと綺麗な、手。
それを、目の前に差し出されている。
「・・・僕にはかまわないでくださいって、言ったはずですけど」
「うんまあ、君の勝手な主張だよね。だから俺も勝手に主張しようと思うんだ。そんなの無理だって」
はい、手。
引っ張られてつんのめるように立ち上がれば、そのまま臨也に抱き込まれた。あまりに突然のことに、思考回路が追いつかない。え、ちょっと、と混乱して意味のない言葉を漏らした帝人に、臨也は心底愉快だとでも言うように声を上げて笑った。
「ばっかだなあ帝人君は!」
いっそ晴れ晴れとした笑顔で。眩しいくらいの笑顔で。
「馬鹿ってなんですか、馬鹿って!」
「あのさあ、2人をつなぐ赤い糸はもう存在しないんだよ?それで、君の心境は何か変わった?俺の気持ちは何か変わったと思う?」
「は・・・?」
そんなことを言われても困る。だって帝人はできるだけあの糸のことを考えないようにして過ごしてきた。つながる先にいた臨也のことも、極力蓋をして無視しようとしていたのだから。
変わったかと言われても困る。変わったかどうかなんて、わかるほど直視していなかった。
困ったような表情で、帝人は臨也を見上げた。その先、喜色満面の笑顔が帝人を抱きしめる腕に力を込める。
「もう信じるしかないよね、俺が君を好きだってことをさ!」