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たかむらゆきこ
たかむらゆきこ
novelistID. 9809
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消えない腕がみせた夢

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 目覚めてみればしがみついていた。いつも言い争いをする男、いがみ合う男の腕に。
「おわっ」
「あ?」
「なな、なんだテメ、なんでこっ・・ァア?」
 見張り台にいることに気づいたのは立ち上がったからである。ゆらりと揺れた体、素面の男に腕を差し出そうとは、もうゾロもしない。サンジはなんとか自分で持ちこたえ、大樽の縁に指を引っ掛けた。
「っ、ぶね、」
 そんなサンジに、目ェ覚めたかとゾロが聞けば、顔を歪める。
「クソッ、・・酔っ払ったか、」
 苛立たしそうに息をつき、舌打ち。見れば遠くの空、水平線の向こうは白み始めていた。朝食の準備をするにはまだ些か早い時間かもしれないが、ここいることも憚られる。咳払いをしたサンジは深く呼吸し、樽縁に片足と両手を掛けた。
「飯できたら降りて来いよ」
「そんな時間か?」
「大体な」
「・・・・・・おい」
 見送る背中にゾロが一つだけ声を掛ければ、サンジは振り返って怪訝な表情。何とも気まずそうな赤い顔で、いらねェよクソマリモ!毎度のように怒号を飛ばす。しかしゾロは可笑しそうに声を上げて笑い、サンジの分の悪さを煽った。
 気分が悪い。あいつにあんな風に笑われるのは癪に障る。しかし、あんな状態で眠っていた自分を思うと何も言い返せなかった。みた夢を思えば、何も言い返せなかった。

「腕くれェ、いつでも貸すぜ?」





夢をみた。

 奇跡の海はやはり見つからず、だけどそんなことなど気にもならないと勇敢な海の戦士は言うのだ。見つけなきゃ海図に描けないじゃない、世界中の海図を描いた航海士も笑って言い、どんな海なんだろうな、目を輝かせるのは一番の万能薬と呼ばれる医者。真実を見つけ、尚も世界の歴史を知ろうと歩む考古学者も笑みを浮かべ、抜き出る者はいないとさえ言われる世界一の大剣豪も、海は広ェからなと饒舌だ。みんなで冒険できりゃあそれでいい、そう高々と笑う、幻の秘宝を手にした海賊王。膝をついてしまう前に仲間の声が聞こえた。
 その声に救われて顔を上げれば、そいつがいた。
 変わらない長い髭を編みこんだ、幼い頃から知る瞳。何も言おうとしない男のその腕を掴めば、いつもなら消えてしまうそれが消えなかった。
 強い腕は自分の手の内で脈を打っていた。

 ── ジジィ・・

 そんな、夢をみた。