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連続実験:症例H

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第一話:死に誘う甘い香り(新堂)


 
 じゃあ、はじめに話をさせてもらうぜ。
 一応自己紹介しておくか。俺は新堂誠。三年D組だ。よろしくな。
 
 早速だが坂上、お前は香水を使った事があるか?
 ……まぁ、大抵の男はないよな。
 俺も、部活や体育の授業で汗をかけば制汗スプレーを使うことぐらいはあるが、香水なんてもんは女のつけるもんだと思うぜ。 と言っても、学校に香水をつけてくるような女は好きじゃないけどな。
 
 だが、たまにいるんだよな。男でも香水をつけてどぎつい臭いを巻き散らしている奴がよ。
 色気づいてるんだかなんだか知らねぇが、周りにとっちゃいい迷惑だ。酷い場合、そういうのがそばにいるだけで食欲すら失せちまう。
 俺が話すのは、香水が原因で酷い目にあった男の話だ。
 
 俺のクラスに神田拓郎って奴がいたんだけどな。そいつは、やたら女にモテた。
 俺から見れば、成績はまあまあ、運動神経も普通、顔も平凡、人当たりは可も不可もなくで、一体何がいいのかわからないような奴だった。
 だから俺は神田とはそれほど親しくしていなかったし、別に親しくなりたいとも思っちゃいなかった。
 
 けどな、神田は日野と仲がよかったんだよ。
 毎日昼休みになると日野が神田を迎えに来て、他の連中と一緒に飯を食うのさ。
 俺か? 俺はクラスのダチと教室で弁当を食うからな。日野達が何処で飯を食っていたのかまでは知らねぇよ。
 
 とにかく、日野と神田はそのぐらい仲がよかったってことだ。
 ……ところが、あの日は違った。昼休みに入ると、神田は逃げるように教室を出ていっちまったのさ。
 やがていつものようにうちのクラスにやってきた日野達は、神田が教室にいないことを確認すると、一体どうしたんだと首を傾げていたよ。
 
 その時は日野も大して気にしちゃいなかった。たまたま他に用があったんだろうと言って引きあげていった。
 
 だが、神田はその日から、昼休みに入ると日野達が来るのを待たずに出て行っちまうようになったんだ。
 それが一週間も続けば、さすがにおかしいと思うよな。
 しかも神田の様子は、日が経つにつれておかしくなっていた。顔は青ざめ、目は血走り、何かに怯えてるようだったな。
 
 
「お前ら、神田と何かあったのか?」
 
 日野に神田の様子を尋ねられて逆に問い返してみたが、日野の返事は「まるで心当たりがない」というものだった。
 
「どうやら俺は避けられているらしいから、お前、それとなく事情を聞いてみてくれないか?」
 
 日野にそう頼まれて、俺は面倒だとは思ったが引き受けることにした。日野の奴には借りがあるからな。
 どんな借りがあるのかって? まあ、色々とな。
 
 とにかく次の日の昼休み、俺は早速神田を追いかけて問い詰めた。回りくどいのは好きじゃねえからな。直球で聞いたんだ。「お前、何で日野を避けてんだよ?」ってな。
 すると神田は、眉を顰めてこう言った。
 
「だってあいつ、最近どぎつい香水をつけてきているだろ? 俺はあの臭いがダメなんだ。気持ち悪くて吐きそうになる。とても一緒に昼飯なんて食えたもんじゃない」
 
 それを聞いて驚いたよ。俺は日野から香水の臭いなんて、まったく感じなかったからな。
 むしろ、俺は神田の臭いの方が気になった。神田は日野の臭いに文句をつけていながら、自分でも香水の臭いをぷんぷんさせていたのさ。
 よくいるよな、他人のことは悪いことほど目につくが、自分のことはまるで見えてない奴が。
 
 坂上、お前はどうだ?
 周りの奴の言動に腹を立ててばかりで、自分のことをろくに省みていないなんてことはないか?
 ……そんなことはない、か。ああ、悪かった。そんなにムキになるなよ。
 話を戻すぜ。
 
 
「なら、日野にそう言えばいいじゃねぇか」
 
 俺は呆れながらもそう言ってやった。神田の為じゃない。訳もわからず避けられて困っている日野の為だ。
 話してみても、やっぱり神田のことは気に入らなくてな。理由も話さずに逃げ回ってるなんて、感じ悪いだろ。
 
「話したさ。 でもあいつ、香水なんてつけてないって嘘をつくんだぜ。 他の奴らも、変な目で俺を見るんだ。 みんな鈍感なんだよ。 あの臭いが気にならないなんて信じられない」
 
 神田はそう言いながら、制服のポケットからやけに小さいスプレーを取り出し、身体中に吹き付けた。
 その途端、甘ったるいというか、化粧くせえというか、何とも言えないむっとするような臭いが辺りに広がったんだ。
 ありゃ一体、何を使えばあんな臭いになるんだろうな。原液自体は無色透明で、ただの水にしか見えねえのによ。
 
 俺は腹が立って、つい怒鳴り散らしちまったんだ。
 
「お前のほうが、よっぽど香水くせえよ!」
 
「えっ?」
 
 普通はそんな事言われたらショックを受けるだろ。でもな、神田の反応はおかしかった。
 思いもよらない、という顔をして、間の抜けた声を出しやがったのさ。
 
「この香水、臭い……するのか?」
「は? 香水なんだから、そりゃするだろうが」
 
 あの驚き方は尋常じゃなかったぜ。自分の臭いは気にならない、なんてレベルじゃなかった。
 
 ──神田の話はこうだ。
 
 奴はその頃、年上のOLと付き合っていた。
 なんでも、道に迷っている彼女を目的地まで案内してやったのがきっかけだったらしい。
 神田は、困っている奴をみると放っておけない性分なんだとさ。
 荷物を抱えてよたよた歩いているばあさんがいたら、声をかけて荷物を運んでやったり、泣いてる迷子がいたら、一緒に親を探してやったり……。
 女ってのは、そういう奴に弱いんだろうな。
 
 だが、それぐらいの事なら俺だってやってるぜ。電車でばあさんに席を譲ったり、川で溺れてるガキを助けたりな。
 年寄りを労るのは当たり前だし、死にかけてる奴を目の前にして見過ごせるわけないだろ。
 
 話が逸れちまったな。
 その彼女がある日、神田に香水をプレゼントした。
 神田は笑顔で受け取ったものの、使うつもりはなかった。香水が苦手だったからさ。
 ところが彼女は、毎日その香水をつけて欲しいという。自分も同じ香りをつけているから、会えない間は自分の存在を香りで感じていて欲しい、ってな。
 
 俺にはよくわからねえが、まあ、健気だよな。
 そこまで言われて、神田も渋々香水をつけることにしたのさ。
 
 すると、どうだ。
 その香水は、無臭だった。少なくとも神田には、臭いが感じられなかった。
 神田はこれなら安心だと、毎日その香水をつけた。彼女も喜んだ。
 
 だが、ちょうどその香水をつけはじめた頃から、神田は日野の香水の臭いが気になるようになった。
 はじめのうちは友人だからと我慢していたが、臭いは日に日にきつくなっていった。そして、とうとう耐えきれなくなったのさ。
 
「日野、お前の香水、ちょっときつすぎるぞ」
「え? ……香水なんてつけてないぞ」
「そんな筈ないだろ。何で嘘をつくんだよ」
「いや、本当に……おい、お前達もそういう臭いを感じるのか?」
「いや、別に」
「臭いなんてしないけど」 
 
 神田は日野と友人達の言葉に愕然とした。
 
作品名:連続実験:症例H 作家名:_ 消