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連続実験:症例H

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 自分が神経質なんだろうか。でも、こんなに臭うのに……。
 
 神田は、日野達にからかわれているのだと考えた。
 
 それから神田は、日野達から逃げ回るようになった。もう我慢の限界だったし、口で言ってもしょうがないと諦めていたんだ。
 ところが、日野の臭いはますますきつくなっていった。
 
 
「今では、あいつが近づいてくるのが、臭いでわかるようになったよ」
 
 神田はひどく怯えていた。臭いに対する嫌悪感だけじゃない。
 
 何故、自分以外はこの臭いを気にしないのか。この臭いを感じているのは、自分だけなんだろうか。
 
 そして、臭いを発する日野自体が、怖くて堪らなかったのさ。
 
「あの臭いを嗅ぐと、頭が痛くなる。 吐き気がして、息苦しくて、こんなに苦しいなら死んだ方がマシだとさえ思うんだよ」
 
 俺は思ったね。原因は日野じゃない、彼女にもらったっていう香水なんじゃないかって。
 神田にも香水をつけるのをやめたらどうかとアドバイスしたんだが、奴は聞く耳を持たなかった。彼女が悲しむからってな。
 勝手なもんだよな。恋人が悲しむのはダメで、友人を悲しませるのは平気なのかよ。
 俺はますます神田が嫌になった。
 
 それから、三日後くらいだったか。俺はテスト勉強の為に、日野を家に呼んだんだ。あいつ、成績いいからな。
 そん時は赤点をとると小遣いを減らすって言われてたもんだから、俺も必死だったんだよ。
 
 日野が泊まっていくって言うから、布団を用意していた時だ。電話が鳴った。両親より先に子機で受けると、神田からだった。番号は、連絡網を見たんだろう。
 俺が電話に出るとすぐ、神田は切羽詰った声で助けを求めてきた。
 
『し、新堂か? 助けてくれ!臭いが近づいて来るんだよ!殺される!』
 
 何を馬鹿なことを言ってんだと思ったぜ。
 いくら臭いとはいえ、香水なんかで死ぬかよ。それに、日野は俺の隣にいる。
 
「安心しろ。日野は俺の家にいるぜ」
 
『そんな馬鹿な!だって臭いは………
 ギャアァァァァァァァァァッ!』
 
 あん時は、鼓膜が裂けるかと思ったぜ。
 思わず子機を耳から遠ざけて、もう一度近づけた時には、もう切れていた。
 
 神田は翌日、死体になって発見された。その死体には首がなかったんだとさ。
 
 神田が感じた臭いは、一体何だったんだろうな。
 坂上、お前はどう思う?
 俺はな、神田の彼女が怪しいと思うぜ。神田を殺したのも、その女なんじゃねえか?
 
 日野に聞けば、一度その女に会ったことがあるっていうし、おおかた神田と仲がいい日野に嫉妬したんだろうよ。
 
 よくいるよな。異常に男を束縛したがる女ってのが。「私と部活、どっちが大事なの?」なんて聞かれたら、ウンザリしちまうぜ。
 あ? 経験があるのかって? 嫌なことを聞く奴だな。
 お前はどうなんだ?
 ……おいおい、考え込むなよ。別にお前の過去なんかどうでもいいんだよ。
 でもな、もしこれから女と付き合うなら、嫉妬深そうなタイプはやめといた方がいいぜ。
 ダチとオンナを天秤にかけさせるような奴は、特にな。
 
 俺の話はこれで終わりだ。次は誰が話すんだ?
 
作品名:連続実験:症例H 作家名:_ 消