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待ち合わせ、青空の下

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どういう風の吹き回しか、外で待ち合せることになった。
一緒に出かけるというのに、わざわざだ。

「たまにはそういうのも面白いだろう?」

至極上機嫌にそんなことをシュミットが告げるものだから、エーリッヒは何も言う気がなくなってしまう。
同じ屋根の下で寝食を共にする生活にあって、一緒に出かけようというのにわざわざ別行動を取る必要もないと思うのだが。
いたく上機嫌のシュミットは、鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気だ。
こんな嬉しそうなシュミットが見られるなら、一見無駄に思える行為だって行うにやぶさかではないと思い直す。
幸いにして明日はいい天気の予報だし、朝から爽やかな空気を吸うのもいいだろう。

「分かりました、では、公園の広場のところで」

「ああ、10時にな」

時間と場所を確認したところでおやすみなさいと告げて部屋を出る。
おやすみ、という、声を背中に受けて、肩越しに振り返ってエーリッヒは笑顔を返した。

さて、そうとなれば、それはそれで楽しみなものだ。

基本的にいつでも行動を共にしているわけだから、待ち合わせと言えばせいぜいがリビングかお互いの部屋の前が関の山。
本格的に外で、というのは確かに滅多にないことだ。
といっても、明日の朝食の席はどうせ同じなのだが、まあ、別に構わないだろう。
いつもの生活に、ほんの少しとはいえ変化があるのは面白い。

(そうとなったら、明日のために早く寝ておこう)

多少なりとも部屋に向かう足取りが軽くなった自分は、やはり楽しみにしているんだろう、シュミットとの待ち合わせを。
楽しそうにしていたシュミットの顔を思い出す。
自然、頬が緩んで自分まで嬉しくなった。





「ごちそうさまでした」

そう言ってナイフとフォークを置けば、自然とシュミットと目が合った。
シュミットは既に食べ終えて、コーヒーのカップを傾けているところだ。
小さくシュミットが片目を瞑り、エーリッヒは返すように微笑む。
交わした目配せを、いったい何だ、とでも思ったのだろう、ミハエルが小首を傾げた。

「どうかしたの、二人とも。なんか嬉しそうだね」

「え? いえ、」

「何でもありませんよ、リーダー」

二人でそれぞれにそんなことを言えば、アドルフとへスラーもこちらに視線を向けてくる。
何でもないから、と目で返すと、ヘスラーは首を傾げてアドルフが肩を竦めた。
ふうん、とミハエルは不思議そうにしていたが、やがて窓に目を向けて、そうしうたら窓を横切った小鳥に目を奪われたようだ。

「あ、小鳥」

明るい声音が跳ねて、青色の小鳥が窓に羽ばたいた。



部屋に戻って着替えと支度を済ませてしまうと、後はもう特別にすることもない。
今日のためにやるべきことはきちんと済ませておいたのだし、やり残したことがあって気もそぞろでいると、何よりシュミットの機嫌が悪くなる。

『俺といるときは俺のことだけ考えていろ』

そんなことを告げられたこともあると、思い出して思わず笑ってしまった。
彼の独占欲は、もっぱら自分だけに向けられていて、エーリッヒはそれが嬉しい。
シュミットの要望通りにいられるようにすべて片付けたあとの部屋にいるのは、どうにもそわそわとして落ち着かないだけから、早めに宿舎を出ることにした。
八時を程よく過ぎた時間、朝の空気はまだ暑くなる前で、エーリッヒはその空気の中を散歩がてらに歩くことにする。
待ち合わせの公園は宿舎から数分歩いたところにある。
深くなりつつある緑の茂る街路樹の下をゆっくりと歩くと、初夏のゆったりとした風が頬を撫でた。
途中行き合った散歩中の犬が、尻尾をぶんぶんと振ってこちらに寄ってくるので、視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
飼い主はいたく温厚そうな老婦人で、触ってもいいかと許可を求めればにこりと笑顔が返ってきた。
足元に纏わりつく人懐こげな茶色の毛並みの犬にエーリッヒもまた、にこりと微笑む。

「人懐こい子ですね」

しつけがいいのだろう、顔を擦りつけてくる子犬はいたって行儀がいい。
このひとがしつけたなら納得できる、といった風情の上品な空気を漂わせた夫人は、優しげに微笑んだ。

「動物好きは動物の方でわかるって言うから。この子にもわかるんでしょうね、可愛がってくれる人が」

「……そうですね、僕は動物、好きですから」

好意というものは確かに伝わるのだ。
この子犬がそうであるように、
自分とシュミットが、何を言わなくともそうであるように。



老婦人と子犬と別れて更に進む。
見上げる空は徐々に青さを増してきて、そこにぽかりと浮かぶ濃い白の雲。
滲むような青の中に浮かぶ清冽な白のコントラストはとても綺麗で目を奪われる。

「……綺麗、だな」

それは誰かを思い出させるからだとすぐに気付く。
明度の高い、彩度の濃いそれは、清潔で清廉で、きっぱりといつでも潔いシュミットを思わせる。
曲がったことは大嫌いで、理想に真直ぐで、一度信じたものを疑わないひと。
仲間には全幅の信頼を寄せて、立ち向かうべきものには毅然として顔を上げるひと。
ときには過剰とも思える自信を裏付けするだけの努力を欠かさないひと。
そのくせ、努力をひとに見せるのは嫌いで。

「……綺麗だ、な」

きれいなのは、空だけでなく、



待ち合わせ場所に到着して、そばにあるベンチに腰を下ろした。
そうすると空が一層見上げやすくなって、眩しい青が視界一面に広がった。
まるでシュミットが目の前にいるような気がする。
くすりと笑って、ベンチの背に体を預けて目を閉じた。
ゆったりとした初夏の風。
温かなそれが思い起こさせるのはやはりシュミットの温もり。

『俺といるときは俺のことだけ考えていろ』

彼はそんなことをかつて言ったけれど。
そばにいなくたって、こんなにも自分はシュミットのことばかり考えている。

(シュミット)

そばにいなくとも、こんなにも自分はシュミットへの思いに支配されている。

(早く、会いたい)



どれだけそうしていたのだろう、心地よさに身を任せて空に顔を向けていると、

「エーリッヒ!」

やがて聞こえた声、振り向けば駆け寄ってくる白いシャツ姿。
とても清潔で綺麗なそれに、それを来たその人にこそ、目を奪われる。
腕に巻いた時計を見れば、約束の時間を5分ほど経過していた。

「待たせたか?」

多少慌ててきたのだろうか、シュミットはエーリッヒの前に辿り着くと、小さく息を切らした。

「ええ、ずっと、待ってました」

「…そんなに待たせたか? すまない、」

わずか5分とはいえ、遅刻という行為がそもそも好ましくないと思っているシュミットのこと、む、と眉を寄せたのだが、

「いえ、」

エーリッヒは笑ってそれを押しとどめる。
眉間にしわを作っているシュミットには、大した落ち度はない。
たった5分、必要以上に早くに出たのは自分なのだから、待つことなど何の苦でもない。
だって、

「大丈夫です、待っていたのは確かですけど」

「?」

僕にとっては、と、言いながら、不思議そうに自分を見下ろすシュミットに、最上級の笑顔を向けた。

「僕にとってはね、貴方を待つ時間はすべて幸せなものですから」
作品名:待ち合わせ、青空の下 作家名:ことかた