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Nostalgia - hotline square -

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「どうした!?」
泣き叫ぶサイケに慌てた様子で近づいてきたのは、彼のマスターだった。咄嗟に抱き上げてくるその腕にサイケは縋りつくようにして、その首に腕を絡めた。そして、心の中で爆発してしまった感情をそのまま吐き出していた。
「つがるがひどいの!ひどいこといった!あいたいのにあいたいのに!だめだったいうんだ!マスターはいいっていった!だからねがったのに!だめだって!」
サイケの叫びに何も言わずただ落ちつかせるように温かな手が何度も背中を撫でていく。
「あいたいのに、だめだって……どうしていうの……」
あやすように背中を撫でる手の動きに感情を波立たせていたサイケから徐々に爆発した感情が薄れていくのを如実に感じながら、サイケは瞼を閉ざしマスターの腕の中にその実を委ねた。そうする事でよりいっそう抱きしめられた体には機械である己には作る事の出来ない人間の温かさが伝わって来る。もし、津軽に会って今と同じように泣き叫んだら彼はマスターと同じように抱きしめてくれるだろうか。そうであったらいい――そうであってほしい。まだ会う事が出来るかも分からないというのにそんな思いを胸に抱いたサイケははぁと大きな溜息を零した。
あんなにも感情を爆発させた事はない。《回線》を繋げようとしても、ノイズが走り上手く繋がらない。きっと己が出してしまった音波で回線がおかしくなってしまったのかもしれない。そう思えば自身のしでかした事に震えが走る。このままもう二度と津軽と繋がる事が出来なくなるのだろうか。それは嫌だ、怖い、いやだいやだ。
「大丈夫か?」
また再びサイケの感情が高ぶりそうになったところで、耳に飛び込んできたのは津軽と瓜二つといっていい程に似ているマスターの声だった。たったそれだけでサイケの気持ちがしゅるるると音を立てて小さくなっていく。その次に浮かんだのはあまりにもけたたましい声をあげてしまった小野への周知と人間とは言え音波の余波を受けただろうマスターへの罪悪感だった。
「……ますたー、ごめんなさい……」
落ち着きを取り戻し始めたサイケはマスターの首に絡ませていた腕を緩ませた。サイケの動きに合わせて背中に回っていた腕から力が抜け腕を回すだけという形へとなる。そうする事で、サイケの桜色の瞳とマスターの薄茶色の瞳が重なる。落ち着きを取り戻したサイケにほっとしたのだろう、マスターは穏やかな笑みを浮かべて背に回していた手で頬に触れた。
「大丈夫みたいだな」
「……っ、うん………ごめん、なさい……」
「そんなに謝るなって。……で、何がダメなんだ?」
そう問われてサイケは口をつぐんだ。脳裏に過ったのは津軽との最後の会話だ。マスターには話してはいけないといった津軽の言葉はきっと自分よりも世界を知っているからこその言葉だ。サイケはそれでも言いたかった。でも、津軽の言葉を無碍にすることはできない。あんなにも反発していたというのに、どうしてか彼の言葉を頭の中から捨て去る事が出来なかった。
「……っ、ますたーはおれのねがいごと、かなえてくれる?」
「あぁ?……あーそういう話をしたっけな……何か欲しいものあんのか?」
「……つが……」
「?何だ?」
穏やかな視線を向けてくるマスター。サイケの大好きな人だ。でも、津軽にも会いたい。それを言ったらどんな反応をするのだろう?サイケはこの時始めて考えた。己は《回線》の向こうにいる人とは異なり、最低限の知識しか与えられていない。作ってくれた人は確かこう言っていた。
『君は最低限の知識と感情しか搭載していない。まぁ機械らしい機械って事かな。でも、君はそれでいいんだ。君は教えられる事で覚えていくタイプだから、いっぱい教えてもらいなさい』
言っている事の半分も理解できなかった。その後マスターは色々と教えてくれてサイケもそれらをすべて覚えている。だが、まだ津軽と話していると己はまだ不十分であると感じているのだ。それがなんであるかまでは分からないが、サイケは近づきたかった。自分よりもいっぱい知っている津軽に。もっとして欲しかった、己の事を。
「どうした?」
「え、あ……あのね、ますたー」
「あぁ」
どうすればいいだろう!津軽に会いたいという気持ちは消えない。でもあの言葉を無碍にすることはできない。どうすればいいだろう!どうすれば!そう思い周囲をキョロキョロト見渡したところで、窓辺にいる撮りの存在に気付いた。彼らは自由に外にいる。でも、サイケはまだ世界を理解していないという点で外に出た事がない。会いたいといってはいけないのなら、こうしたらいいのではないだろうか!サイケは名案だよね!と思いこみ、それを口にした。
「ますたーといっしょにおでかけしたい!」
「あ…?外?」
「まいにちいっかいでいいから!……だめ?」
小首を傾げて強請るサイケに、彼を溺愛しているといっても過言ではない男がダメだという訳がなく。その言葉が出た直後に「分かった、毎日一回だな」と告げた相手にサイケは満面の笑みを見せながら「ありがとう!ますたーだいすき!」と叫びながらもう一度抱きついた。



それから数日後出会う可能性を考えたのは、二体の人形たちである。
そして、その日から転げ落ちるように全てが変わっていく事になろうとは、この時気付いていた者は誰もいない。