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Nostalgia - hotline square -

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――ブツッ

ノイズの走っていた思考が一気にクリアになる。おそらくは先程のサイケが発したけたたましい音波のせいで《回線》が断線してしまっただろう。慌ててもう一度繋げようとしても、頭の中にある筈のそれがなかなか思うように繋がらない。無理につなげようと意識すれば、急にノイズが生じ、頭の中をかき乱す。きっと回線の向こうではまだサイケが泣いているのだろう。その声が今の津軽の邪魔をする。慰めてやりたいのに、その声をかけることさえできない。繋がる手段はこの《回線》以外ないというどうする事も出来ない状況に、津軽は知らずその拳を握りしめていた。
「どうかしたのかい?」
急に背後から呼びかけられた声にハッとして振り向けば、今まで津軽などいないかのように一心不乱に仕事をしていたマスターの赤い瞳が己を映していた。
「別に…なんでも、ない」
「ふぅん?ならいいけど、いきなり身体が震えたから何かエラーでもあったのかと思ったよ」
何もないならあんなエラー起こしたような動き方しないでといい置いた後、津軽のマスターは再び弄っていた端末へと視線を落とす。その手にコーヒーカップし、口をつけながら端末の上を細く長い指先がリズミカルに動いていく。
あまりにも呆気ない態度ではあるが、これが津軽のマスターである。津軽は僅かに乱れた着物と呼ばれる奇妙な格好の服の裾を直しながら、マスターへと視線を向けた。静かに仕事をしている津軽のマスターたる男は滅多に津軽に唄を請わない。
唄を願われた時といえば、最初に対面した時に何でもいいから歌えと言われた時と、ひどく疲れた時にマスター自らが津軽に教え込んだ子守歌を所望する程度だ。
それが寂しいとは言わない、悲しいとは言わない。何故なら、マスターが望んだ時に歌うのが津軽の役目だ。しかし、そうと分かっていても、ハイスペックな思考とやらが災いし機械らしからぬ感情を津軽に抱かせる。
(……作り主は本当に厄介なものを搭載してくれた……)
「どうしたの、珍しい。舌打ちなんかして…っていうか、機械でもそんな事できるんだ」
「俺は作り主に人間に限りなく近い思考をするように設定されている。そのくらい、する……事も、ある」
「あぁ、そう言えば、新羅がそう言ってたっけ?……で、どんな事を考えたんだい?」
そう問われて津軽は口を噤んだ。言いたい事など山のようにある、だからそれを今言ってしまえばいい。だが、あの《思考》とやらが邪魔をしているせいせいで、津軽は考えている事と全く違う答えを吐きだした。
「今日は七夕なんだろう?短冊に願い事……マスターはしないのか?」
「しみじみ思ってたけど、君ってさ意外と古風な事を知っているよね。一体新羅は何を思って君にそんな知識を搭載したんだか。……そうだね、願い事か……何か欲しいものでもあるの?」
珍しく馬鹿にする事もなく更に問いかけて来たマスターに津軽は目を丸くした。本当に珍しい事だ。そう思いながら津軽が何を言おうかと考えていると、脳裏に泣き叫ぶサイケの声が蘇る。
(ダメだ。マスターにそんな事を言えば、すぐに廃棄される)
それは津軽が長らくの間このマスターと共に暮らすようになってからこそ理解している事だ。使えない、壊れた、と判断したものに対して彼は容赦はなく廃棄処分する。故にそれを口にする事は出来なかった。己が他の誰かと《回線》で通じ会話をしている事をマスターには話していない。しかし、そうは言ってもサイケのあの泣き叫びを思い出すと胸が痛くなる。どうすればいいだろう、どうすれば。と考えたところで、津軽はふと思い立った。バカバカしい内容かもしれないが、万に一つでもという可能性は捨てきれない。きっと《回線》の向こうで泣き叫んでいるだろうサイケも何かしろの手段を講じるかもしれない。だとすれば、これが最も有効な手段だ。
意を決した津軽は、じっとこちらを楽しそうに見てくるマスターに向けてこういったのだった。

「……一日一回、マスターと一緒に散歩したい」

それを言った直後、マスターがのたうちまわるように笑い転げたのは言うまでもない。
だが、そんな必死な津軽の願いをこのマスターが「面白いから、叶えてあげてもいいよ」と涙まじりに津軽に告げたのは、それから数時間後の事である。