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撫でて、さわらないで

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やっと手が離れ、明るさが戻って、目を開いた。明るい空気は冷たいのだと頬の皮膚が感じ取る。見上げたトムさんの顔は、愉快そうに笑っている。気まずくもなりはしない空気に、分かっていても堪えられない気持ちになる。
「……なんでですか」
「珍しく顔の位置が俺より下だったからー。灰皿とか別にいらねーけどな。チャンス、みてーな」
いつの間に取ったのか手に空き缶を持って、子供のような顔をしている。邪気の無い顔。その笑顔が、中身の無くなった俺を通り過ぎる。
「それだけすか」
当たり前だ。それだけに決まっている。トムさんの顔は微塵も崩れない。
「そういや初めてじゃんな、ちゅーしたの。初ちゅー初ちゅー」
「なんすかそれ。節操ないっすよ」
「いいじゃん、若さだろ。もっと濃ゆいのしてやろーか」
「遠慮しときます」
意地の悪い顔を見て、俺はと言えば必死で呆れた顔を作る。不自然を排斥するのだ。立ち位置を履き違えないように。その不毛さには、とっくに気付いているけれど。
トムさんは、優しい。それを証明するかのように、時折与えられるこうした戯れごとのせいで、俺はいつまでも彼の手を放す事が出来ないでいる。優しさは、恋と等価ではない。これ程までに俺を脅かす。彼は、俺の思いを知っている訳でもないと言うのに。勝手に縋っておきながら、また勝手に恨めしさすら感じている俺は、惨めだろうか。
それでも、縋らずには、想わずにはいられないのだ。撫でて貰わねば。出来が悪くて髪も傷んでゴワゴワな俺の頭を、優しいあの人の手で、何の滞りもない素っ気なさと気休さで、撫でて貰わねば。さもないと、俺は、意味を成さない肉の塊になる。消えてしまう。存在の証明。生きる、意味。トムさんは、ここにいる「俺」そのものを内容している。
相反するふたつの思考が、矛盾をものともせず俺の脳を侵食していた。それは、安寧に取り付かれ、何処へも戻れなくなった弱さだ。俺の、弱さだ。俺ときたら脳ミソまでデタラメな有り様だなんて、情けな過ぎて笑ってしまう。だから、笑って済ませる程度の事だ、と思う事にする。不毛だとか、そんなのは、取るに足らない事だ。内側にあれば実害の無い想いなのだ。それくらいの勝手は、許されろ。
「おーっし、そろそろ行くかー」
燻る煙草の入った缶を投げ捨てて、トムさんが歩き出した。普段と露とも変わらない、変わる筈もない、気怠げでどこか楽しげな表情を浮かべている。空は青く澄んでいて、俺には痛い程なので、黒眼鏡で視界を覆った。
作品名:撫でて、さわらないで 作家名:空耳