貴殿の傍に・・・
ここは戦場。数多の命が散り、そして踏まれていく。涙を流すものもいるが、多くは目もくれない。気を散らしたが最後、次の瞬間に自分を待つのは同じ道なのだから。
「なぁ、幸村」
「なんでござろう、政宗殿」
刃を交え、互いの強さを認め合う二人が今、決着をつけようとしている。二人とも息を切らし、肩で息をしている。だが見た限り幸村の方が劣勢だ。政宗よりも傷が多く、そして深いのだろう。膝など当の昔に笑っていた。フラフラになりながらも踏ん張り、政宗に立ち向かう。しかし次の瞬間、彼はあっけなく地面に叩き伏せられてしまった。
「あんた、俺ものにならねーか?」
仰向けに倒れた幸村の上にまたがり、首にかかる六文銭を引っ張り上げながら言った。その目はしっかりと幸村を捉えており、本気だった。
「何を世迷いごとを」
眉を寄せ、視線をそらさずに答える幸村。彼の唇に温かい何かが触れた。幸村がその正体に気付くと同時にソレは離れていた。
「Ah,言い方を間違えたな。アンタは俺のものだ」
You see?と、笑みを浮かべながら言う政宗。そんな彼に対し、幸村は反発した。
「某はそのようなことは認めぬ!さあ、某を討て!!覚悟は当に出来ておるのだ、伊達政宗ぇぇぇぇぇ!」
渾身の力を振り絞り、政宗の腕を振り払おうとする幸村。だが、弱りきった彼の力では政宗を押し返す事は出来なかった。ただ体力を消耗するだけで、政宗の腕を振り払おうと伸ばされた手は、政宗に触れるだけに終わった。彼の手を政宗は優しく握る。
「俺じゃダメか?俺はアンタの全てが欲しい。力だけじゃねぇ。心、そして体も・・・」
幸村の手に唇を寄せる。愛しそうに、そして寂しそうな瞳で幸村を見つめながら。だが幸村は首を振った。
「本来ならば負けた武将は従うもの。しかし、某には政宗殿の意に従う事は出来ませぬ。某にはお館様に某の全てを捧げると誓いましたゆえ、それを破談するような真似は・・・」
出来ないと口にしようとした瞬間、再び彼の唇はふさがれた。
「言うな、幸村。アンタは分かっているはずだ。武田のおっさんを慕いつつ、俺のことも見ていることを。俺が、アンタを想っている事を」
幸村の瞳が揺れる。そして合わさっていた視線が逸らされた。
「なぁ、言えよ。俺の所に来ると。傍にいたいと」
政宗の誘いに幸村が口を開きかけた。その時だった。突如矢の雨が降り注ぐ。政宗は刀を手に取り、撃ち落としていく。そして矢が飛んでくるくる方角を見た。
「お行儀の悪いお客さんはおしおきだ。・・・幸村!」
深い傷を負い、立つ事すらままならない状態の幸村が己の槍を支えに立ち上がった。ゆっくりと一歩ずつ政宗に近づく。隣に立ったかと思うと脱力し、政宗の腕に納まった。幸村は政宗を押して支えを断り、もう一度槍を持つ手に力を込めた。
「政宗殿も体力を消耗しておりますゆえ、某も・・・共に!」
地につけて自身の支えとしていた槍を持ち上げ、己の足だけで立つ。既に気合と言うレベルではないだろう。死力を尽くしているも同然だ。このままでは戦を終え、返事を聞く前に倒れてしまいそうだ。
「Shit!猿飛・・・忍はいねーのか!」
「お呼びで?」
物陰から突如姿を現した佐助。彼は政宗に何も言われる前に幸村を担ぎ上げた。これには幸村が抗議した。
「何をする、佐助!離せ!俺はまだ戦える!!」
「本当、旦那は無茶ばかりするってもんだ」
明るい声で文句を言ったと思うと、そのトーンを下げて続けた。
「まだアンタを死なせるわけにはいかないんでね。真田の旦那、アンタはもっと自分の立場を考えるべきだ」
ぐうの音も出ないのか、幸村は押し黙った。様子を見ていた政宗は後を佐助に頼み、先ほど攻撃が仕掛けられた方へと走っていった。