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僕を狂わせる存在

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おかしい
何がおかしいかと言うと、相馬の態度。

「相馬、」

特にこれと言ってすることもなく、そしてやけに静まり返っている室内に居心地が悪くなり、隣で大人しく本を読んでいた相馬の肩に腕を回す。
ぴくりと僅かに身体を震わせ、落としていた視線をこちらへと寄越す。
それをいいことに、俺は当初の目的_キスをするために、もう片方の手で相馬の顎をくいっと持ち上げた。
もう少しで触れ合う寸前の距離になったところで、それを振り払うように相馬が勢いよく立ち上がる。

「あ、俺、ちょっとトイレ!」

苦笑いしながら逃げるように駆けて行く背中を、半ば呆然と見送った。
宙で彷徨う右手が寂しい。

「あいつ、何かあるな」

眉間に皺は俺の得意技。
それが今日は一層深く刻まれているであろう。
何故なら、冒頭にも述べたように、今日の相馬がおかしいからに他ならない。
実は、今失敗した己の行動は、本日三度目の失敗だったりする。
普段なら大体向こうが一方的に仕掛けてくるのだが、今日は全くと言っていい程ちょっかいをかけてこなかった。
俺が乗り気でもそうでなくても、自分がその気なら、そのまま情事にまで持ち込むあいつがだ。
単にそういう気分じゃないからか、それとも、俺に言えない事情があるのか。
どちらにしろ、三度も拒み続けられた俺の心は、とっくにずたずただ。
いや、それ以上に、苛立ちの方が勝る。
少し落ち着こうと煙草を銜え、ベランダに足を向けようとしたその時。
作品名:僕を狂わせる存在 作家名:arit