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とあるメイコとマスターの話

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両想い未満



「少し休憩しましょうか」

 歌の途中だけど、マスターにそう言われた。
 今練習しているのは、マスターの作ったオリジナルの曲。
 マスターの風貌からはちょっと想像しがたいロックでセクシーな曲。
 私が普段歌っているのは他のマスターが作った弟妹の曲のカバーや動揺なんか。
 ようするに、初めてのマスターのオリジナル曲だから。もっともっと上手く歌いたい。
 のに…。

「ごめんなさい」

 上手く歌えない。
 折角のメロディラインを壊すような癖がついてしまう。

「気にしなくてもいいんですよ。少しずつ、練習していきましょう」

 マスターの顔はいつも通りの笑顔だけど、顔に出さないだけで本当は呆れているんじゃないか、とか。
 喜ばせてあげられないこと、上手く歌えないことが悔しくて、情けなくて思わず唇を噛む。

「こら」

 自分の世界に浸っているとふわりと唇に優しい感触。

「ダメですよ。傷がついてしまいます」

 気付けば目の前には心配そうなマスター。
 私のあごの下に人差し指を、そして親指で噛んでいた唇をそっと引っ張るようなしぐさ。
 その所作はまるでキス寸前のような…。

「わ、わかったわよ!」

 その体勢が恥ずかしくてパシンと手を払ってしまう。
 マスターの視線から逃げるように体ごと背けて。

 あぁ、でも。
 ばれるかな?
 ばれちゃうかな?

 耳が、熱い…。

「もう少ししたら…」

 自分の事にいっぱいいっぱいで、マスターが一旦置いた距離を再度詰めていたなんて気付かなかった。
 思っていたよりもすごく近くで聞こえたマスターの声。
 顔を見ないように、見られないようにと背けたはずが、思わず振りむいてしまう。

「もう少し、したら…?」

 違うとはわかってても、少しだけ甘い期待をしてしまう。
 ねぇ、その続きは、なんて言ってくれるの?

 でも、まぁ…マスターのことだから、ね。

「「練習、再開しましょうか」」

 ほら、ね。
 わかっちゃいるけど。

「…あんまり期待しないでよね」

 それはマスターに向けてでもあり。
 自分に向けてのセリフでもあり。

「えぇ。でも好きだから期待するのは自然な流れでしょう?」

 だから、ホント。
 そういうこと言わないでほしい。

 まぁ…頑張ってあげなくもないけど、さ。