二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

逢瀬の一夜

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
財前光。読みは「ざいぜんひかる」。
四天宝寺中学校2年7組に所属する男子生徒で、当校が誇る男子テニス部の2年生レギュラーである。
彼と私は幼稚園の頃からの幼馴染で、中学2年生になった今でも同じクラスの所謂腐れ縁。
長い年月を共に過ごしてきた中で彼に恋心を一度も抱いた事がない…と言えば嘘になるが、今現在の彼と自分の関係はお互いが認めるただのクラスメイトである。

彼の性格は良く言えばクール、悪く言えば無関心。
手先が器用で頭の良い彼は大抵の事を苦労なくこなす事が出来るせいか、あらかたマスターし掛ける直前でやめてしまう事が多い。そのため、今だかつて彼がのめり込む程ハマり込んだものと言えば幼少の頃から今も続けているテニス位だろう。
それは恋愛という少し違ったフィールドでも同じ事で、告白され付き合うことになってもそれが1ヶ月と続いた事が無い。彼が飽きてしまうのは勿論の事だが、何より相手の方が彼の余りのクールさに音を上げてしまうらしい。まあ初めから「断るのも面倒なんで」という理由で付き合っているのだから当然っちゃ当然なのだが。

そんな彼が、何と“とある人物”と付き合って今日で3ヶ月目を迎えるらしい。
その『人物』とは今まで光が付き合った学年一美人のあの子でもなければ、可愛らしい容姿をした女の子でもない。つまり-…同じ部活の人物、『男』である。

- * -

「ちょお、そこの女の子!止まってや!」

先生に頼まれた白地図を資料室に置き、さて戻ろうと3年の教室が並ぶ廊下を歩いていた時だった。
聞いた事も無い男子の声が背後から響き、私は立ち止まって声のする方に姿勢を向きなおした。
そこに居るのは緑のバンダナを頭に巻いた光と同じ位の身長の男の人。
見覚えは…かすかにあるかもしれない。

「えー…と」
「あ、スマン。俺、一氏ユウジっちゅーねん。お前、確か光の幼馴染ちゃんやろ?」
「ひとう…、ああ!」

名前を言われたところで記憶の中のパズルがピッタリ重なった。
この人が光と初・1ヶ月超えをした彼氏さんの一氏ユウジ先輩だ。
そういえば入学生歓迎会か何かで眼鏡の先輩と漫才をやっているのも見たことがある。さすがに1年以上も前の事だから忘れかけていたが。

一氏ユウジ先輩は私の考えている事がサッパリ読めないのか首をかしげている。
私は慌てて「はじめまして」と頭を下げてた。
一応幼馴染の恋人とは言え先輩である。

「ちょ、何頭下げとんねん!」
「え?何か私まずい事したから呼び止められたんとちゃうんですか?」
「ちゃうちゃう!…話があんねん。」

急に声を潜めた一氏先輩の様子から直ぐにその会話内容が光であることを悟った。
というかそうじゃなければ私が一氏先輩に呼び止められる理由なんて無い。
一氏先輩は私の手を取ってキョロキョロと辺りを見渡した後、近くに空き教室に飛び込んだ。
そんな事していたら変に誤解されてしまうのでは…?と思うが、余りにそんな一氏先輩の姿が面白くて私は敢えて口を噤む。

「あんな、幼馴染ちゃんに聞きたいんやけど…」
「はい。ひ…財前の事ですよね?」

恋人の前で名前呼びも無いだろうと敢えて言い直して問いかけると、一氏先輩は顔を真っ赤にしながら「ちゃうねん!いや、ちゃうわけやないんやけど、ちゃうねん!」と首をブンブンと振り回した。
一つ年上とは到底思えないその可愛さに、光がこの人を選んだ理由も何となく分かる気がする。
…たぶん1000ある理由のなかに「おもろいから」は絶対に混ざっているはずだ。

一氏先輩はヒッヒッフーと確実に間違えている呼吸法で息を整えた後、再びそろそろと口を開いた。

「…幼馴染ちゃん、光の欲しいものって分かるか?」
「え?あ、一氏先輩やと思いますけど」
「そ、そそそう言う意味とちゃうんや!」
「ハハハ、分かってますわ。“物”ですね」

先輩は『光と幼馴染なのもよう分かるわ』と小さく呟きながら、恥ずかしいのか目を逸らしたまま顔を赤くして首をコクンと縦に振った。恐らく明日に控える光の誕生日に備えて、のことだろう。
光の好き嫌いは意外にハッキリ分かりやすいし、別段好きなものを誰かに話したりするのも嫌がるタイプじゃない。だが同時に誰かにねだったりする事は無いため、いまいちプレゼントの品を選ぶのに悩まされる人種の一人だ。好きなものをあげればいいのかもしれないが、彼は大抵既に自分で手に入れてしまっている。そういう性格だ。
そういう事を一氏先輩も知っているからこそ、私に聞きに来たのだろう。

「財前って意外にロマンチスト…というか『プライスレス』にこだわるタイプなんですわ」
「ロマンチスト!?あいつが!?」
「一緒に浴衣で花火大会デートとかどないですか?確か明日あるはずですわ…」
「そ、そんなんでええんか?」
「そういうのがええんですって。財前から切り出すことは滅多ないですけど…」

今はまだまだ光も一氏先輩も手探りの状態なのだろうから言い出せないのかもしれないが、光は一度素を見せだすと一気に甘えたがる性格だ。自分はそういう対象になったことはないが、彼の義姉さんとの交流っぷりを見ていれば明らかである。初めは一方的に光から避けていたのに今では第2の母になりつつあるのだ。もちろんこの事は光から口止め(という名の脅し)をされているため校内で知っているのは私くらいのものだろう。
一氏先輩に知られた日には多分私、大阪湾に沈む…までは行かずとも真宝院池辺りには沈むはずだ。
誰だって初めは好きな人にカッコいい自分を見せていたいものである。

「でもウチ、浴衣ないねん」
「じゃあ財前のお兄ちゃんのを借りたらええですよ。サイズ…ちょうどええと思いますし」
「…幼馴染ちゃん、案外酷いんやな」
「これでも14年間財前の幼馴染やっとりますから」

そう言うと一氏先輩は「納得やわ」、と人懐っこい笑顔を浮かべた。
本当に、この人が光を好きなってくれて良かったと私は思う。
彼ならきっと光を良い方に変えてくれるはずだ。ただの幼馴染である私が思うにしては仰々しすぎる事なのかもしれないが、自分ではない誰かを大切に出来る人はきっと幸せなれるはずだから。
それがこの人-…一氏先輩とであれば、大丈夫。

そう思いながら一氏先輩と今後の(光との問題解決の)為に携帯番号を交換している時だった。
誰もいないと思っていた廊下から足音と、そして扉が開く音が聞こえる。
二人で驚きながらその方を振り向くとそこにはさっきまでの二人の会話の主役、光が立っていた。
表情が乏しい彼だが、縁も所縁も無いと思っていた私と一氏先輩が共にいる驚きは相当だったようで目を丸くしている。そりゃあ当然だけれども。

少し間を開けた後、光はズンズンと私たちに歩み寄った後、二人の目の前に立ちはだかるように止まった。何となく-…というより確実に機嫌が悪そうだ。
まあこんな人気の無いところで自分の恋人が異性と一緒にいたのであれば不機嫌にでもなる。

「…ユウジ先輩、何やっとりはるんですか」
「ひ、光?自分こそ何で…」
「それはこっちの台詞ですけど。俺は部活になかなか来ない先輩を呼びに来ただけっすわ」
「彼氏さんの登場ですね。じゃ、私はこの辺で…」
作品名:逢瀬の一夜 作家名:みやこ