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SWEET TRICK.

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「トリック オア トリート!!」

 既に部活が終了して早30分。誰よりも早く更衣室に戻り、そして部室を飛び出していったと思われていた一氏ユウジが部室の扉を勢いよく開きそう大声で叫ぶと、部屋の中で一人携帯電話を弄っていた財前が珍しく瞳を大きく見開きながらこちらを凝視していた。擬音をつけるのであれば『ポカーン』。大抵の事では大きい感情表現しない彼にしては珍しい表情に、飛び込んだ張本人であるユウジは思わず目を丸くさせる。
 手元の携帯電話がピロピロと気の抜ける着信音を鳴らしていても、その持ち主である財前は微動だにしない。ただ、ユウジの方をまっすぐ見ている。
  その熱すぎる視線になんだか意気揚々とび混んだ自分が恥ずかしくなってきたのか、ユウジは思わず視線をそらそうとした瞬間、相手が動きを見せた。

「…あ、ハロウィンっすか?」
「アホ!はよ気付けや!10月31日にやる事といえば一つやろ!」
「いやスンマセン。俺ん家、典型的な日本家庭なんで」

 視線の持ち主―…ユウジの一つ下の後輩であり、恋人でもある財前光は気だるそうにそう答えながらも、彼への視線を逸らす事はない。変なところでもあったのだろうか?と首を傾げユウジは自分の姿を見返してみても、差し当たり目立つ部分は見つからなかった。ある意味魔女のコスプレによる自分の胸部にある偽乳が目立つ点といえば目立つ点だが、そもそもこういうコスプレは小春が何千回と繰り返しているはずで、悔しいことに小春のターゲットになりやすい財前は見慣れているはずだ。

「…なにさっきからジロジロ見とんねん」
「魔女コスプレで堂々と部室に乗り込んできた人のセリフとは思えませんわ。スカートやし…」
「なんやと!スカートで悪いか!コスプレ言ったらやりきるのがマナーやろ!」
「変ちゃうくて、かわええって意味です」

 そう財前があまりにもサラリと言い放つものだから、思わずユウジが顔を赤らめると彼はどこか愛しい者を見るように目を細めながら、とんがり帽子の隙間から零れた彼の前髪をそっと指で掬った。その行為さえもサラリと自然な流れすぎて、ユウジの鼓動はドクドク速度を増す。これならば何時も通り『気持ち悪い』と貶された方が反応出来るし、ずっと良い。

(こんなはずじゃなかったのに、俺は、財前を驚かすために―…そうだ!)

 ユウジはポケットをごそごそと探り、そこから魔法ステッキを模した星付きの細い棒を取り出し財前の眼前に向けてピッと突き出した。

「ひ、光!お菓子くれなきゃイタズラするで!」
「イタズラ?ああ、ハロウィンってそういうことやったわ」
「せや!はよお菓子よこせ!そうやなかったら学ラン奪い取るぞ!この衣装ちょっと寒いし!」

 先輩、それじゃ只の追いはぎですわ、と財前はブツブツ呟きながら鞄の中をゴソゴソと漁る。財前はこう見えてなかなかの甘味好きで、いつもポケットにチョコ、鞄には大福や饅頭を忍ばせているのをユウジはよく知っていた。何せデートの度に甘味屋に連れて行かれるのだから嫌でも覚えるというものである。今だって別に甘味を求めて、自分がハロウィンに興じたわけではない。だけれど、一応慣習ならば従っておくべきである。財前がお菓子を持っていなかったら―…というのはまったく考えていないが。
  しばらくして財前が「あ」という声を上げて、鞄の中から大福を取り出してきた。

「これ部活後のおやつにする予定やったんすけど、ま、しゃーないっすわ」
「せやせや!いただき!」
「それ、賞味期限今日まで何で直ぐに食べたほうがええっすわ」

 財前はそう言って袋を破った大福をユウジに差し出した。ご丁寧に「財前光用」とマジックで書かれたその大福をユウジは意気揚々受け取ると、財前が「腹減った」と一つ溜息を吐き出す。ユウジはそんな財前を少々気にしながらも、俺自身も部活が終わって直ぐにハロウィン準備に取り掛かった(というかコスプレ衣装に着替えた)ため、結構空腹が堪え始めていたころである。何時もなら特に感慨を覚えることのないその白い姿が、なんだかキラキラ輝いているようだった。ちなみに財前の手から大福を受け取ったそれにユウジがパクついた瞬間、財前が怪しげに微笑んだのだが、食べるのに夢中でユウジがそれに気付く事はない。
  大福一個というのは空腹時になると小さいもので、結局、数分経たずにユウジの胃袋の中へと収まってしまった。そして指に付いた餡子を舐め終え、ふう、と彼が一息吐いた時である。
  自分が大福を食している間、財前が黙り込んでいた事に気付いたのは。

「先輩、トリックオアトリート」
「…はあ?」
「俺、いまウサギ男なんで」

 財前の声に顔を上げると、そこにはニヤリと口元に怪しげな笑みを作りながらウサギ耳を着用した男がいた。一瞬、突然の衣装変えに誰なのか分からなくなるが、耳元のピアスといけ好かない目つきから自分の後輩・財前光に他ならない事が分かる。ただ財前がこんな格好を自ら進んでやるのは珍しかった。そんなことを思いながら『耳が4つもあるやんけ』とユウジはボンヤリ心の中でツッコミを入れる。
 だが事はそれどころじゃない。

「ちょ、ちょ待ってーな。いま大福食べてもうて何もないねん」
「なら、イタズラしますけど?」

 財前はロッカーが連なる方へユウジを押しやった。ユウジはワタワタしながら手足をバタつかせるが、既に目が据わりきっている財前には何の効果もない。その光景は傍から見れば『魔女の実験失敗~実験動物ウサギの暴走~』と思われてもおかしくないその光景だが、実際は『魔女の策略失敗~中ニ病ウサギの暴走~』といったところだ。ただ、魔女のピンチには変わりないとしても、ピンチなのは自身の命ではなく自身の貞操である。

「ああ!鞄…は玄関においてきてもうとるし…いまから走って…」
「先輩、タイムアップっすわ」

 愉快そうに普段では絶対に見せることのない満面の笑みを作りながら財前はユウジの唇に噛み付いた。鈍く与えられた痛みに開かれた唇のその隙間から自身の舌を捻じ込み、彼の舌を吸い上げるように咥内を蹂躙する。その合間にユウジの唇から漏れる吐息と甘い声が財前の聴覚を刺激し、その刺激に促されるようにして貪るようにより深く深く唇を繋げる。
  そしてしばらくして惜しみながらも唇が離れた頃、ふと触れたユウジの頬は既に真っ赤な色を灯らせ、目元はトロンとしながらも何かを求めるように自身を見つめていた。スイッチが入ったのである。もう、止まる事なんて彼にも自分にもできやしない。 初めはそういうつもりはなかった。期待していなかったと言うと嘘になるが。まあどちらにせよ据え膳食わぬは男の何とやらである。それにこうなった以上、止めるつもりもない。
  財前はユウジから目線を逸らさないようにしながら、腰に回していた手をスカートの中へと忍ばせる。既に熱を持ったそこに触れた瞬間、ユウジの唇から甘い声が漏れた。

「やっ、ひか、る…これ、イタズラや、ない」
「じゃあ今からやり方変えます?落とし穴でも作りましょか?」
「…っ、アカン、やだ…これでええから」
作品名:SWEET TRICK. 作家名:みやこ