二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ぼくを誘うのはきみ

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
「お前ら付き合っとったんなら、ちゃんと言わんかい!」

蒼穹といわんばかりの晴天の下、パコンと聞こえるラケットがボールを捉える音が響き渡り、その合間に聞こえる声援。それはまさしく『青春』である。
四天宝寺中男子テニス部は再来週から始まる全国大会に向けて強化合宿という目的で、とある山奥の合宿所に来ていた。レギュラーと順レギュラーだけの参加と いう事もあり、人数こそ少ないものの高い次元での競い合いということもあり、フル部員が揃っていると錯覚する程の熱気がコートを包み込んでいる。ダブルス 強化のため話し合いを続けるダブルス組、体力強化のためひたすら走りこむ部員、筋力トレーニングに励む部員…過ごし方は様々だか、部員の表情は一様に引き 締まっていた。

…はずだったのだが。
更衣室の片隅にあるベンチでは、まるでそこだけ切り取ったかのようにコートの中とは違う緊迫感が包み込んでいた。
ベンチには部長こと白石蔵ノ介がいて、その下の地べたでは二人の部員がブスッとした顔で正座をしている。ただ時折冒頭のような声が響き渡るだけで、それ以外は予想外にひっそりとしていた。

コート内で練習試合の順番待ちをしている忍足謙也は、そんなベンチを横目で見ながら、自分と同じように待機を続けていた対戦相手の金色小春に小声で話しかける。

「…あそこどないしてん…?」
「ああ、謙也君。あの二人、付き合ってるらしいわぁ」
「…はっ!?」

金色小春は表情ひとつ濁す事なくケロッとそう答えると、「銀さんナイスサーブ!」と黄色い声を上げた。
しかし謙也の頭は混乱するばかりである。付き合う?誰と、誰が?…あまりに動揺していたせいかその声は外に漏れ出していたらしく、「ユウ君と、光が」と小春はニコニコとしながら答えた。

「はぁああ!?つ、付き合う!?はあ!?」
「もー謙也君声大きいわぁ。銀さん達の試合に響くやろ」
「いや、でも…!」

視 線の先、ベンチに座って腕を組んでしかめっ面をする白石蔵ノ介は謙也の視線に気付いたのかキッと目尻を鋭くさせる。謙也は慌てて視線を小春に戻したのだ が、どうやら後ろでも動きでもあったらしく、白石の「財前!ユウジ!聞いとるんか!」という彼には珍しい酷く怒り心頭な怒鳴り声が聞こえてきた。
そんな白石の様子に小春は「わぁ怖い」とふざけたような声を上げ、その後に「謙也くんのせいやないわぁ」と言葉を続けるが、フォローになってるのか?謙也は一人心の中でごちる。

まあ、そんな事よりも何でこんなことになっているのか、だ。

「つかまあ付き合ってるとしても、や。何で白石怒っとるん?あいつ二人のオトンか?」
「さっき光とユウ君、試しにダブルスしてたやろ?まあ試合自体は二人の快勝で終わったんやけど…」
「まさか、こ、この神聖なコートで…」
「いやぁだ!いくら光だってコートの真ん中でユウ君を押し倒したりしないわよ!更衣室の真ん中の間違いやわ」
「同じやんけ!!」

謙也が大きな声を上げると、どんより空気のベンチの方から「謙也!マジメに練習せえや!」という白石の声が聞こえてきた。
練習も何も待機中なんだけれど…と思わず返してやろうかと思ったが、そのまま謙也は口を噤んだままハァと小さく息を吐く。ヘタレと言われ様がここで返したら負けだ。自分までベンチの仲間入りするのはごめんである。
そんな謙也を気にしているのかしていないのか、完全に飛ばっちりやんなあと小春は暢気な声で他人事のように呟く。
ただ、今度ばかりは謙也も頷かざる終えなかった。

しかしそれにしてもあの二人が付き合ってるとは。男同士だろう、とか色々ツッコみたいところはあるにしても、なんにせよ一つ年下の後輩と、仲良くしている同年齢の友人に先を越されたのは事実である。
謙也はハァと二度目の重い溜息を吐き出し、それを聞いた小春は彼の肩に優しく手を置き、ウンウンと首を2回縦に振った。

===

自分がいけないのだと、財前はよくよく理解していた。
今は全国大会前の強化合宿中で、今年春からレギュラー入りした自分は、確かに他のレギュラーに比べて人一倍練習に励むべきなのだと思う。3年生を差し置いてレギュラーになった自分が求められてる物は自分が思っているよりもずっと大きい。
だから1日目、2日目、3日目はひたすらに頑張った。自身のウィークポイントである体力面とメンタル面のトレーニングに励み、暇さえあれば財前は白石にアドバイスを乞うた。
財前の珍しいまでの真面目さに白石も機嫌良く、合宿は滞りなく進んでいたのだが、問題は4日目の今日におこった。

今日は1日中ダブルス試合形式の練習予定で、普段組んでいるダブルスペアとは違うペアで、という主旨の元、財前はユウジとダブルスを組む事になったのだ。
全部員とは言わないもののそれなりの人数が参加し、そしてまた部員の力量が高いレベルで拮抗している試合は時間がどうしてもかかってしまう。そうなるとペアの相方と二人きりで過ごす時間が長くなってしまうわけで―…。
試合まではそれなりにお互い高いモチベーションを維持できていた。
準レギュラーのペアに6-0で快勝を収め、人が出払った更衣室で反省会をする。そしてその反省会も終わり何となく気が緩んだ所で…財前は我慢が出来なかったのである。

「アホ」
「しゃーないやん。先輩が色っぽいからあかんのやろ」
「どんな言い草や!せやから俺はやめぇ言うたんや!」
「先輩の『やめぇ』は『もっと』と同意語っすわ」
「アホかー!!」

誰も居なくなった大浴場でとユウジはデッキブラシを振り回しながら、ギャンギャンと不機嫌な声を財前に浴びせかけた。聞いてか聞かずか財前は気だるそうに手にしたスポンジに洗剤を振り掛けて、これまた気だるそうにゴシゴシと洗面台を磨いていく。

真面目な練習中に不埒な行為に及んだ罰として、数時間前白石から言い渡されたのは『風呂掃除』。てっきり心臓が張り裂けるのかと思う程の走り込みを強要されるのかと思っていた二人はホッと胸を撫で下ろしたのだが、いざ実際はじめてみると面倒臭い物で。
几帳面な白石が部長とはいえ、他部員が全員その性格をしているわけではない。倒れたシャンプーボトルに投げ出された洗面器、そして石鹸で滑付く床を一つ一つ処理しながら、二人は数え切れない程の溜息を吐いていた。

「しかしながらよりにもよって白石に知られるとはなぁ」
「あの人、更衣室にカメラでも仕掛けとるんとちゃう?」
「さすがにそこまでは…。つか俺が言っとるんは更衣室の事やなくて俺たちが付き合うてることやし」
「…ああ、そういえば誰にも言ってなかったわ」

別に隠すつもりはなかった。財前とユウジが付き合い始めたのは初春の頃。青々と木々が生い茂る初夏の今日まで報告できなかったのは、単純にタイミングを逃していたのと、中々最後の一歩が踏み込めなかったからである。
それに男同士の恋愛ということもあった。
これはユウジが小春と見せるネタ要素を含めたものではなく、笑い要素なんか一切ない真面目な純愛だ。二人とも部員を信じないわけではないわけではないが、他人とは違う要素のカミングアウトは誰だって勇気がいるものである。

「でもこれで公然と先輩とイチャつけますね」
作品名:ぼくを誘うのはきみ 作家名:みやこ