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手紙

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財前光さまへ

こんにちは。手紙なんか書くのはほとんど初めてやから、多分上手く言える自信はないんやけど、たぶん言葉にしたらまた俺アホやからケンカ吹っ掛けてもうて伝えたいことの半分も伝えられないだろうから手紙にしてみます。
俺あんまり字うまくないけどそこら辺は見逃してな!

まずこの前、お前の事嫌いだなんて言うてごめん。
俺な、確かに小春の事が大好きなんや。これだけはどうしても譲れん事やから許してほしい。
でもなお前に対する『好き』と、小春に対する『好き』がちゃうことだけはちゃんと知っていて欲しいからこの手紙を書きました。

小春はとても大切なパートナーなんや。お前は入学前やったからあんま知らんかもしれんけど、俺がこうやってお笑いテニスとか出来とるのも小春のおかげ。小春がおらんかったら今の俺はないかもしれない。いや、たぶんただの根暗ヤローやと思うねん。小春の全てが俺にはきらめいて見える。すごくすごく尊敬してるし、大切なんや。
でもな、小春とはいつか離れ離れになるんやと思う。というか高校の進路がちゃうからまず1年後すでにバラバラやねんけど…。
まあそれはおいておいて、とりあえず俺と小春は今度の夏大会で試合結果がどうあれダブルス解消になると思うねん。
ものごっつ寂しい。けどしゃーないやん。俺と小春は一心同体修行とかしとったけど、結局は別々の人間や。小春は頭もええし、俺とは違う。しゃーない。でも時々連絡取ったりとか、同窓会とかで会うた時にまた仲良うできればええなって思う。

でもなお前はちゃうねん。俺とお前は一つ歳が違うから結局はバラバラになってまうやろ。それって多分俺と小春が別々の道に別れて行く以上にしゃーないことやと思う。中学やから留年もでけへんし、飛び級もでけへん。
でもな、俺、それしゃーないなんて思えへんねん。何でやろな。理不尽やろ?
小春と離れて、小春の事を思う時に俺は多分「小春は元気でやってるやろか?」って考えると思う。
でもお前と離れたら、俺、「お前が浮気してへんか」とか「お前が俺以外の奴に笑いかけてないか」とかんな事ばかり考えると思うねん。実際いまこうやって1 階離れた教室でも思っとる。…浮気してへんよな?

一瞬でも離れたくないねん。一瞬でも違う時間を過ごしたくないねん。ずっと一緒にいたい。世界がさかさまになっても、お前や俺が不利な立場にたっても、一緒におりたいと思ってる。お前が嫌がっても…や。

せやからこの前嫌いだなんて言ってごめんなさい。俺の事嫌いにならないでください。俺は小春がいないとものごっつ寂しいけど、お前がいなきゃ生きてる意味ないねん。お願いします。俺の事嫌いにならないで、おねが(これ以上は文字が滲んで読めない)

一氏ユウジより

===

難産過ぎたレポートを提出期限ぎりぎりに教授の元へ届け、明日に迫っている引っ越しの段取りでももう一度考えてみるかと…と帰路に着いて直ぐの事だったと思う。ユウジさんの「助けて!」コールを受信したのは。
当然恋人の身に何が起こったのかと急いでバイクを飛ばしてきた俺を出迎えたのは…

「光!引越しの準備手伝ってーな!」

明日に引っ越しを控えているのにも関わらず、恐らく片付けの半分も終わっていない乱雑なユウジさんの部屋だった。

「…せやからコツコツ荷物つめとかなあかん言うたやろ…」
「やって最近色々仕事貯め過ぎて…」
「ほらさっさと手ぇ動かして下さい。俺、あっち片付けてきますんで」

半泣きのまま仕事道具である画材をガチャガチャとダンボールに詰めているユウジさんを横目に、俺はベッドサイドの片付けへと足を向ける。画材は素人の俺にはどういう風に扱えば良いか未だに良く分からない部分があるから、この方が恐らく効率はいいだろう。どうせ中学高校と同じ進路を歩んできたのだからさして見られて行けないものはないはずだ。
というか明日から同棲を始める二人にそんなものあったら困るのだけれども。

ベッドサイドの付近は恐らくこの部屋の中で一番片付けが進んでいないエリアらしく、付近に散らばったダンボールはほとんど空っぽと言っていいようなものだった。隅にあるプライベート用の本棚には以前ユウジさんが好きだと言っていた画集や、高校の図書室から借りっぱなしらしい文庫などが雑多に詰まっている。(このシリーズの3巻を止めていたのはコイツだったか)
その中で一冊、見慣れた背表紙が俺の目に飛び込んできた。

「…へぇ、『四天宝寺中男子テニス部の思い出』やん」

確か俺が中学2年生の時、謙也さんが思い付きで言った一言によって制作が決まったものだったと思う。夏大会が終わり、3年生の引退の少し前あたりだっただろうか。卒業アルバムではなく、この今のテニス部の思い出になるようなものを作ろうという謙也さんの思い付きは白石さんの同意を得て直ぐに制作が始まったんだっけ。
総括は謙也さんとユウジさん。謙也さんは主に写真を集めたり色んな部員から話を聞いたりする係で、それをうまくまとめてデザインしたのがユウジさんだった。最後の方は部員全員でワイワイと色んな書き込みをしたのも覚えている。遠山が書き込みスペース大きく取り過ぎたせいで、謙也さんの書くスペースが1センチ四方になったんだっけ。

「ほんま、あの人アホやろ…なんで1センチで頑張ったんやろ…」

懐かしさのあまり片付けの手も休め、少し古びた背表紙を人差し指で引っ張り出してパラパラとページを捲りだした…時だった。
ページの間から一枚の紙がパラリと舞い、そのままヒラヒラと床に落ちていく。
俺はベッドの上に冊子を静かに置いて、そっと足元に落ちた紙へ手を伸ばした。

「封筒…?宛名は…俺?」

それは少しだけ黄ばんでおり、この世に生み出されてから長い時間が経っている事を指示している。宛名欄に確記されているのは「財前光さまへ」の文字。財前光―…それは間違いなく俺自身のことだろう。
裏側を捲ってみたが、送り人の名前の所は空白であった。
しかしこんな封筒見覚えはない。確かに学生時代何通かラブレターなるものを複数の人物から貰った事はあるが、その全てを本人に返却しているし、実際俺に行き渡らなかった手紙があったとしてもここにあるのは不自然である。送り主の名前が無いのも変だ。
俺は少し訝しく思いながらも、封されていない封筒の蓋を静かに開けて、その中から数枚の便せんを取り出し広げてみた。

そして一瞬にしてその答えを知る事になる。

………

……



どれくらいの時間が経っただろうか。もう時間感覚なんて俺の中から消え失せているのかもしれない。
目の前に綴られる汚い文字を何度も何度も読み返し、一つ一つの言葉が俺の頭の中をまるで音楽のように心地よく流れていく。
滲んだ文字を指でなぞり、読めない文字とその先にあったのであろう風景を目に浮かべては口元には笑みが浮かんでしょうがなくなる。こんなの、仕方ないじゃないか。

ガチャガチャと画材がぶつかり合う音を奏でながらユウジさんが寝室へと入って来たのを気配で感じ、振り返るとそこには不思議なものを見るような顔つきのユウジさんが立っていた。

「…なあ光ーそっちの片付け…ってお前立ったまま何しとるん?それに耳まで真っ赤…」
作品名:手紙 作家名:みやこ