手紙
「あ、ユウジさん」
「なんや?ウチにエロ本なんて無い…でぇーっ!!」
ユウジさんは手にしていたダンボールをそこら辺に投げ捨て、俺の手元にある便せんをバッと奪い去っていく。
そしてワナワナと震えながら、顔を真っ赤にさせて「あ」やら「う」やら意味のない短い言葉をくちびるからこぼしていた。
「よ、読んだんか!」
「…どうやと思います?」
「お前ちゃんと質問に答えや!って、急に抱きつくなや!」
俺は思わずユウジさんの腕を自分の方へと引き寄せ、手紙ごと腕の中に閉じ込めた。
突然抱きしめられたユウジさんは『とりあえず』と言わんばかりに少しだけバタバタと抵抗をするが、直ぐに諦めたのかフゥと一つ溜息を落とした後、俺の背中へと腕を回す。
「どうやと思います?」
「読んだ、んやな…」
「俺ほんま愛されてたんすね。というかこんな大切なモン、何でここにあるんスか?俺宛てやろ?」
「…やって恥ずかしすぎて渡せんやろこんなん。それにこれ渡す前に仲直りしたしな」
もう何時頃なんかわからん、お前とはケンカばっかりやったし。
ユウジさんはいじけたように小さな声でそう呟いた。確かにこの手紙の頃は俺たちは顔を合わせれば喧嘩ばかりしていたっけ。
だけれどそれ以上にキスだってしたし、何度愛を呟いたかもわからない。
この手紙の中のユウジさんが不安だったように、俺も不安で仕方なかったのだ。
「同じやったんですね」
「…何が?」
「ほな、この手紙の中の俺たちに負けへんように、今の俺たちもラブラブしますか」
「あ、あほ!引越しの準備まだ半分も…」
少しだけユウジさんから体を離して、彼の顔を見つめる。
あの頃とは違って少しだけ凛々しくなっているのにも関わらず、こういうときの表情は何時になっても変わらない。
不器用で素直じゃなくて、あまのじゃくで、本当可愛い恋人。
「この頃の俺達には時間があらへんかったのかもしれん。けど、今の俺たちの未来は自由で不変なんですわ」
俺の言葉にユウジさんは睫毛をパチパチと何度か重ね合わせた後、ほんの少しだけ首を縦に振って俺の身体へとしがみついてきた。彼の手元にある手紙がクシャリと音を立てて、手の中でじんわりと更に滲みを加速させていくのが目に入る。
少しだけ勿体ないような気がするけれど、今の俺達にはもう手紙なんて必要ないのだ。
「明日二人一緒に引っ越し屋さんに怒られるとでもしますか」
「…アホ」
そう呟いたユウジさんは発した言葉とは逆に、あの白い便せんのような綺麗な笑顔をしていた。