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赫い月が嗤う夜

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「さぁ、俺と取り引きしようか。」

 赤い月が弧を描いて笑った。





 この男に所詮場所などと言うものは凡そ関係無い。
自己の望む通りに事が運ぶ事を良しとし、他者の迷惑や感情など所詮二の次であって、一体どの口が「人、ラブ!」、と嘯くのか、一度縫い付けてやりたいと思う事も屡だ。
そして人を観察する傍ら彼の欲求を満たす物事があるとすればそれは、彼の琴線に触れるので、そうして漸く、周りと言う雑音に少しだけ気を配る。
全く以て人としての最低限の良識も常識もかなぐり捨てたような男であると、帝人は感情の籠らない視線で今だ喋り続けるものを見た。

「それでね、その時さ―――・・・」

仮にも公道の真ん中である。幾ら帝人自身が捕まった時点で諦めてガードレールに身を寄せていようとも相対している男がその真ん中でくるくると回りながら至極愉しげに(ただし楽しげなのは男だけだ)マシンガントークを繰り広げる。
語る言葉も話題も統一感が無い。以前親友の正臣が言っていた、5分毎に信念が変わる、と言うのは強ち間違っていないのかもしれないと、改めて思う。
ただ信念が変わると言うか、一応男の中では対象への興味が完結しているのではないかと帝人は考えている。他人にしてみればそのスパンがあまりにも短い為にそう言われるのかもしれないが。
相槌を挟みながらも余計な口を開かないのは、そう言った理由もあり、また、男に面倒なことを吹き込んだり吹き込まれたりしない為だった。
だがこの男の口を塞いだとすると、口上だけが取り柄で生き甲斐のような男であるからひょっとしたら死んでしまうかもしれないと、有りもしない妄執に囚われて実行できない心の儘ならなさに少年は歯痒く思うのだ。

「―――・・・んでね、ソイツったら・・・・・・って、帝人君?聞いてる?」

「あぁ、はい、聞いてますよ、勿論。」

ふぅん、と気の無いような返答をして男、新宿の情報屋、折原臨也は、帝人の腕を取ると、唐突に歩き始めた。

「はっ?ちょっ、何ですか??」

「良いから、ちょっと付き合ってよ。まぁ、俺は別にこのまま続けても良い話だけど・・・」

君の為を思ってねぇ、と、薄ら寒い言葉を吐いた人外かと疑わしい男の血の様に赤い瞳が揺れた。
ぞくりと、交わった視線に帝人の背に走った寒気は確かに警鐘だったのだけれど、抵抗も、拒絶も、帝人からは失われていた。
ただ、されるが儘、従順にその背を追って行く。



大通りを抜けて細い裏路地に入り、人の気配が絶った所で、やっと臨也は歩みを止めた。
フッ、と帝人の腕を離すと、大袈裟な動作で振り返る。
その瞳に宿るのは、嘲笑と、愉悦と、獰猛な獣の本性。

「ねぇねぇ、帝人君ってさぁ―――・・・」

道化が、嗤う。
走る寒気が背と言わず全身を駆け巡った。
逃げてしまえば良い。そのまま踵を返して、全速力で逃げればひょっとしたら追ってこないかもしれない。
それなのに、帝人の足は、縫い付けられたように動かなかった。
ゾクゾクと、脳髄が揺れる感覚がする。
聴いてはいけない、この先は駄目だと分かっていて、手の震えをどうにか抑えた帝人は、瞳に覚悟と諦観を浮かべて臨也を見た。

「俺のこと、性的な意味で、好きだよね?」

女性が好みそうな、蠱惑的な笑みを浮かべて帝人に問う。
語尾を微かに上げつつも、否定を許さない色に、帝人が応えられる言葉は無い。
ただ黙って臨也を見るだけだ。それは、即ち肯定と見なされる。
そうした帝人の態度に満足げに頷き、臨也は気取った動作で両手を広げると、作りものめいた微笑みを更に作為的にして言葉を紡いだ。

「だからね?別に俺は男を相手にする趣味なんて本当は無いんだけど・・・・・・」

「君は特別だから、望み通りに犯してあげようと思って。」


綺麗な顔で、臨也は、帝人の身体を受けとめようとした。
臨也にとってこの後の展開を予想することなど造作も無いことだと思った。思っていた。
しかし、直後の帝人の表情を見て、首を傾げる。
一体どうして・・・

「なんでそんな、不満そうな顔してるの?」

だって俺のこと好きなんでしょ?、と、傲慢に言ってのけた臨也に激昂するでもなく、また否定するでもなく、帝人は静かに口火を切った。

「・・・・・・解せません。だって、貴方本当は―――・・・」

この先は、告げるべきか否か、帝人は迷った。
見た所の臨也はまだ無意識の段階かもしれない、その上、それが勘違いだったと言う可能性も0では無い。
だが、ここまで言ってしまった以上、音に乗せることしか道は無いのだと、帝人は1つ息を吸い、一気に言い放った。

「平和島静雄が、好きなんでしょう?」



臨也の瞳が大きく見開かれる。
突かれるとは思わなかった心を指摘され、臨也の脳内が瞬時空白に占められる。
臨也が帝人の気持ちを断定したように、帝人のソレも、ほぼ確定的な響きを以て臨也を責めた。
じっと見上げる帝人の瞳に、臨也は徐々に頭の回転を戻して行く。
嗚呼、だから彼は面白いんだ、と。

「本当、君って、俺を飽きさせないよね。で、俺がシズちゃんを好きだって?だから俺が君を抱くのがおかしいって言うの?」

「そう、です。」

「何なの、そんなに純情ぶりたい?」

「そんなんじゃないです。」

臨也の言を否定すると、帝人は制服のポケットを探って携帯を取り出し、臨也の前に翳した。

「ただ、貴方に何のメリットも無いその行為を、どうして率先してやろうとしているかが、理解出来ません。」


例えば、ダラーズを操って静雄に何かしら仕掛けると言うのなら、別にそれは帝人を介さずとも臨也であれば好き勝手に出来るだろう。
敢えて手駒に情を与えて接触してまで静雄に向けさせたい何かがあると、帝人は思えなかった。
臨也が恐らく漠然としか得ていない感情を、帝人は多分の領域ではあるが、はっきりと分かっていた。
臨也の愛情は歪んでいる。静雄の意識が他へ向くのが許せないのだろう。
つまり臨也は殺し合いを通じてでも何でも、彼の中の優先順位がトップを占めていて欲しいのだ。
そう言った観点で見れば、もう十分過ぎる位なのではないかと、帝人は思う。
相変わらず池袋の鬼神、平和島静雄は折原臨也を天敵と、生涯を掛けてでも駆逐すべきモノと認識し、視界に入れば全ての感情を以て臨也に向かって行く。
そこに他者が介在する余地は見当たらない。まさか臨也は日常生活までもを侵したいと言うのだろうか。
だとしてもそこに帝人を挟む理由は分からない。帝人が言いたいのはそう言うことだった。


帝人の一言で粗方の思考を読み取ると、気の毒なモノを見る目付きで目を眇めて哂った。

「君さぁ、鋭いのか鈍感なのかはっきりしなよ。これからどう扱って行ったら良いか迷うじゃん。」

まぁそれが君の美徳かな、と肩を竦めた臨也は再びにまりと何時もの笑みを浮かべる。


「じゃあ、教えてあげるよ。どうして俺が君の気持ちを利用としてるのか、それはね、シズちゃんが君の事を好きだからだよ。あっ、性的な意味でね。」

幼子に真理を説く聖職者のように、迷い無く言の葉に乗せられた音に、帝人は動きを止めた。
まさか、そんな馬鹿な。帝人の脳内を駆け巡るのは否定の言葉だけだ。
作品名:赫い月が嗤う夜 作家名:Kake-rA