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それはない。

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「それこそどう考えたって帝人君は天使っていうよりツンデレの小悪魔だし、いっそ女王様って言った方が」
「臨也さん馬鹿なんじゃないですか!?死んだ方がいいじゃないんですか!!??」
「帝人のどこがツンデレの小悪魔なんだよ。てめーの目は大概節穴だな!」
「静雄さんーーー??」
「俺も目が節穴ならシズちゃんの目はざる穴だね。ついでに頭はサル並み」
「っっってめぇぇぇえ!!!」
「静雄さん落ち着いてください!小学生並みの悪口です!っていうかふたりして何言っちゃてるんですかーーーー!!」
今にも飛び掛りそうな静雄に背中からぎゅっと抱きつく。


いくら中学生に間違えられる童顔で、かわいらしい顔立ちをしているとはいえ帝人も立派な男子高校生だ。
恋人の欲目とは分かっていても天使だの妖精だのと評されて喜ぶ趣味はない。
小悪魔だのといった評価も論外だ。
しかもなぜこんな話に転換したのか全く理解できない。
そもそも臨也に哀れみの視線を向けられ事実だけでも、既に屈辱の極みだというのに!


「だいたい小悪魔だとか女王様なら臨也さんの方が似合うし、妖精はセルティさんがいるし、天使だって静雄さんのほうが絶対はまりますからーーー!!」


池袋の不文律。
金髪、サングラス、バーテン服。
命が惜しければ平和島静雄にはぜったいに関わるな。

そんな男を天使と呼べる竜ヶ峰帝人。絶叫である。


「み、みかど・・・・・・」
立て付けの悪い扉の様な音が聞こえてきそうな所作で、振り向いた静雄が背中に張り付いている帝人のちいさな頭を見下ろす。
その顔はさすがに真っ赤に染まっている。
「だって静雄さん綺麗だし、かっこいいし、強いし、優しいし、背だって高くてスタイルいいし、白い翼とかすっごく似合うと思うんです!」

頬を上気させ必死な表情でせつせつと訴える帝人は大変かわいらしいが、言っている事は大概アレである。

「いやでも、帝人のほうがずっと優しいし、素直でめちゃくちゃ可愛くて、ちっさくて、肌白いし華奢だし羽生えてねぇのが不思議なくらいで」
「・・・それは微妙に褒めてませんよね?」
可愛いとか小さいとか肌白いとか華奢とか。
「な、なんでだ!?」
年頃の男子高校生に対するNGワード満載だ。
たとえそれが事実であっても。

「と、とりあえずそれは一旦保留にしてだな」
「はい」
「・・・あそこで笑い転げてる蟲を先に退治してくる」
「それがいいですね。目障りですし」
「おう!」
静雄の手が再びベンチを無造作に掴むと「静ちゃんが天使は面白すぎるって!」と一人笑い転げている臨也に向って全力で投げ放たれる。

そうしてそれが戦争再開の合図となった。








結局。
静雄が蟲を退治しそこねたものの新宿へと撃退し、どっちが天使かという話は平行線のまま決着がつかず。
ただデートがご破算になっただけという事に二人が気づくのは日もどっぷりと暮れ、仕事帰りのセルティに声をかけられてからである。







作品名:それはない。 作家名:この香