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ビターオレンジ

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ユキヒトとともにトシマを脱出して、三週間ほどが過ぎていた。トシマでの悪夢のような記憶は未だ鮮明に脳裏へと刻まれている。
 
 あの雨の日を、もがき苦しむ親友を見ていることしかできなかった日を、夢に見ない日はなかった。
 
 日興連から貸し与えられた難民用の宿舎の裏手には、大きな川があった。
 アキラは土手に座り、夕焼けに染まり赤々と煌きながら流れてゆく水をぼんやりと眺めていた。
「……ケイスケ、」
 首に提げたタグを無意識に強く握り締める。
 一緒にトシマを出る、という約束は、果たせなかった。彼を連れ出せなかった代わりに、このタグを持ち出した。悔やんでも悔やみきれないけれど、今でも、あの時自分がしっかりしていれば彼を助けることができたんじゃないかという思いが、頭の中を何度もループしていた。
 アキラはタグを握り締めたまま、ゆっくりと目を閉じた。
「ごめん……」
 謝りたいことは、山ほどある。けれど、もう二度と伝えることはできない。そう考えると後悔と自責の念ばかりが押し寄せて、今でも目頭が熱くなった。
 
「お前、こんなとこにいたのか」
 不意に背後から聞こえた声に弾かれたように顔を上げて振り返る。土手を下ってきたのは、ユキヒトだった。ユキヒトはアキラの隣で足を止め、腰を屈めてアキラの顔を覗き込んだ。
「捜した。何やってるんだよ」
「……散歩だ」
「ああ、そう」
 ユキヒトは大して興味もなさそうな返答をし、そのまま隣に腰を下ろした。ちらと横目にユキヒトを窺うが、その無表情な横顔からは彼の心は読み取れなかった。
 
「お前は何しに来たんだ?」
 突然の問いに、ユキヒトが僅かに首を傾けてアキラを見た。
「だから、お前を捜してただけだ」
「なんでだよ」
「……別に。部屋、いなかったから」
 ――今日も部屋を訪ねたのか。
 
 トシマを出て、それぞれ部屋を貸し与えられてから、ユキヒトは毎日のようにアキラの部屋を訪ねていた。夕飯時に訪ねてくることが多かった。何の用だと視線で問うと、片手に提げたビニール袋を持ち上げて「何も食べてないだろ」とぶっきらぼうに言う。
 最低限の食事は政府から配給されていたが、アキラは食事に興味がない。その上、今の精神状態では生きる上で最低限の物を食べなければ、とも思わなかった。
作品名:ビターオレンジ 作家名:mayuco