ビターオレンジ
何も食べずに身体を壊しても、たとえ死ぬことになってもよかったのだ。生きている意味なんてない、ここでのたれ死ぬのもいいか、と思ってしまう瞬間が多すぎた。
思えば、ユキヒトが配給された食事を持って部屋に押しかけてくれたから、何とか物を食べて、何とか今も生きているのだ。
「何か悩みでもあるのか」
「……悩みがない方がおかしい」
それもそうだ、とユキヒトは鼻で笑った。沈黙が訪れる。いつのまにか真っ赤な太陽は遠くビルの向こうに三分の一ほど沈んでいた。
またも沈黙を破ったのは、ユキヒトだった。
「……あの時、ツナギの奴と一緒に死にたかったのかよ?」
予想していなかった問いに、アキラは目を見開いた。目を細めて、川の対岸に視線を投げる。脳裏を人のよさそうな笑顔が過ぎった。
もう、見られない。
「……わからない」
俯いたアキラは小さな声を絞り出し、弱々しく首を振った。隣からユキヒトの視線を感じていたが、顔を上げることができなかった。ユキヒトもそれ以上何かを言う様子はなかった。
「あんまり思い詰めるな」
「……」
小さな溜息に続いて、優しい声音が耳を撫でた。顔を上げて、ユキヒトを見ると、困ったような、寂しいような表情でアキラを見つめていた。
「誰も責めてない。あのツナギの奴も……トウヤも。お前は悪くない」
その言葉を聞いて、不意に泣きたくなった。洪水のように溢れ出しそうな感情を、アキラは唇を噛み締めて堪えた。
「でも、俺は、……」
「……そんなに余計な責任感じてるなら、手伝え」
「……?」
ユキヒトの言葉の意味がわからず、首を傾げる。ユキヒトは立ち上がると、更に土手を下って川べりに向かって歩いた。
「俺はトシマで別れたチームの仲間を捜す。みんなトシマからきっと脱け出してるはずだ。もちろん、トウヤも。お前も一緒に捜せ」
「……」
「それで、トウヤの愚痴とか、酒とか、死にたくなるぐらい付き合ってやれ。それで勝手に償った気になれ。そうしたら、お前も気が済むだろ?」
振り返ったユキヒトが悪戯っぽい笑みを浮かべる。真紅の髪が背景の夕日に溶けてますます鮮やかな色として、瞬いたアキラの瞳に焼きついた。
――だから、しっかり生きろ。
そう言われた気がした。胸の奥にずっしりと溜まっていた黒い澱が灰のようにさらさらと消えていくように感じた。