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カナタアスカ
カナタアスカ
novelistID. 4748
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STRAWBERRY'S SUFFERING

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どこをどうするとこういう事態に陥るのか、誰か簡潔に説明してくれ。
 日頃の仏頂面をさらにしかめ、濃縮一〇倍の青汁を飲んだ後みたいな顔の一護は、苛立ちのまま手近な椅子を蹴りつけた。
 ガン。ドタッ。椅子もよろめいたが自身もよろめいて、一護は机に手をつく。かろうじて転ぶまでにはいかなかったが、足首はあぶなげな角度まで曲がりそうになった。まったく、この変な厚底の木靴は、拷問器具なんじゃないだろうか。
 鬱憤をはらす些細な八つ当たりの道も絶たれ、忌々しく、少年は足元を見下ろす。『このくらい普通だよ』と口々に言った少女たちの、『普通』とはいったいどのようなものなのか。履かされた七センチは厚みのある分厚い木製底の物体が、拷問の道具ではなく、がんばれば走れもするという『靴』だとは、健全な一六歳の少年には到底承服できない事柄だった。
 元通り椅子に座り直し、一護は机に頭を伏せた。そんな何気ない動作も、普段のシンプルな、カッターとズボンならなんの抵抗もないのに、今着ている服ではガサガサ音がたつような気がする。歩く度揺れるスカートは、ひらひらのついたワンピースの下に、パニエとか言う更にひらひらのスカートをもう一枚重ね着していて、尚更重量感を増している。
 足には拷問具、身体には重り。顔だって、皮膚呼吸できなくなりそうなほどに塗りたくられている。いっそ魂魄となって身体から抜け出したいと願っても、コンはこの状態を作り上げた少女たちの持ち物に入り込んでどこかに行ってしまっている。喜色満面だった彼の脳に、一護の窮地を救おうなんて考えは、百年待っても浮かびはするまい。
 これをまさしく八方塞がりと言うのだろうか。
 眉間の皺を一層深め、一護はこの服を着せられたことの次第を思い返した。

「聞いてねぇぞ、こんな衣装!」
 悲鳴を上げたのは、一護ただひとりだった。
 早朝の教室にいた全員が、金切り声を発した一護に視線を向ける。彼らは全員が全員『コイツいまさら何言ってるんだ』と目で語っている。
「……黒崎くん、聞いてなかったの?」
 おずおずと織姫がたずねた。
 彼女は腕いっぱいに『衣装』を抱えている。その衣装と言ったら! 
 カッターシャツは、一護が今身につけている自分の制服と一見同じものだ。しかし、襟と前合わせが異なる、女子用の品。紺色のプリーツの固まりは――つまり制服のスカートだった。
 織姫やらたつきやら、少女たちが着ているそれとは明らかに異なるサイズのそれらは、披露された瞬間、一護をたじろがせたわけだけれど、救いを求めて視線を巡らせた同室の友人たちは、なぜかさっぱり動じていなかった。
 なんでだ!
 文化祭当日、準備があるからとやたら早い時間の登校を指定された。早いと言っても、そこは文化祭直前も直前、切羽詰まった当日朝のこと、たいして疑いもせず一護は登校した。それがまあ三〇分ばかり前の話だ。
 各教室は準備の熱気に満ちて、みずみずしい活気が校舎を覆っている。中学の『文化祭』は自主性なんか存在しないお仕着せの茶番だったが、高校生の裁量権は大きく、まったく雰囲気が違った。模擬店やら企画やらの宣伝ポスターや看板で、壁は白い部分を探す方がむずかしいくらいに埋めつくされている。。
 『食べ比べチャレンジ! 大盛の店』『告白代行プロジェクト』『自主制作映画上映会』『ユニホーム喫茶』……。
 空座一高の文化祭は例年秋の一日限り。一日だけの舞台にかける熱意は相当なものだ。一日しかないからこそはじける若い感性を目当てに、近隣からも来場者が集まる。
 各クラス、サークルの趣向を凝らしたポスターのトンネルを抜けて、一護は指定の教室に着いた。もともとの自分の教室はどこかの展示に使われていて、他学年の教室、しかも半分に区切ったそれが、一護たちのクラスに与えられた、今日一日の荷物置き場である。
 がらりと開けた室内には、友人兼戦友の、仲間たちが集まっていた。というか、見知った顔しかいなかった。他のクラスメートはどうしたのかと、一護は首をひねった。半年経っても顔を覚えていないとはいえ、文化祭当日の指定時間ぴったりに、一〇人ばかりの仲間うちしかいなければ、いくら一護だってさすがに疑問を抱く。
 チャドの隣に一護が座りこむと、それを合図にしたみたいに千鶴が仕切りだして、準備ははじまった。焼きそば屋のはずなのに、織姫とたつきと、あと一護がいまいち名を覚えていない女子が、布のかたまりをどっさり持ってきたところで、逃げ出すべきだったのだ。多分。
「一護、お前、まさか、聞いてなかったのか?」
 啓吾がぎょっとした風に質した。
 彼は女子用のシャツとスカートを身につけて、机に置かれた鏡を見ながらリボンの形を整えているところだった。水色はすっかりリボンを結び終えていて、チャドはいままさに更衣室の中。着替えはじめていないのは一護だけだ。
『それぞれの前に立ってる女子が持ってるのが、男子の衣装ね。更衣室一個しかないから順番に着替えて。着替えたらお化粧するから』
 千鶴の発言を理解することを一護の脳は拒んで、ふたりが着替え終わって三人目が更衣室に入って、さあ次は自分の番というこの時点になってようやく頭がまわったのだから仕方ない。一護担当の女子が織姫でなければ、長い長いフリーズはもっと早く解かれていただろうが、巡り合わせなんぞそんなもんである。
「聞いてねえよ! うちのクラス焼きそば屋だろ!?」
 昨日までの教室の片隅には『風雲! 焼きそば城』の立看板が何枚も立てかけられていたはずである。シャレが古すぎることを除けば、順当な学祭前の風景だった。
 誰かに自分の役割分担をたずねたら『チャドと同じ班』と言われ、チャドに訊けば、今日この時間に集合とだけ言われたから、ここに来ただけなのだ。
「一護が早退した日に決まったんじゃないっけ? 朽木さんに伝言お願いした気がするなぁ」
 おとなしげな女子の手で化粧を施されながら、水色が言う。髪をヘアバンドで上げて、鏡の前にいる姿が、やたら板についていて空恐ろしい。
「すまん、忘れていた」
「朽木さんたら、もう」
「すまんな」
「仕方ないなぁ。一護、学祭と言えば、『ミズ空座一高グランプリ』じゃないか」
 水色の顔が作り上げられていく様に夢中なルキアが、悪びれない態度で謝罪する。たつきが、完全に意味をわかっていない一護のために、説明をくれた。
 『ミズ空座一高グランプリ』。濁点がポイントのそのグランプリは、つまり女装コンテストである。近在に鳴り響くその名物行事は、もちろん一護にだって聞き覚えがある。自分と結びつくことはなかったが。
「黒崎たち、焼きそばって柄じゃないだろ。我らが一年六組の栄誉を君らに託したわけだよ! 幸いうちには手芸部がいるし、衣装のクオリティはばっちりだ。一年がグランプリを狙うのは難しいが、君ら四人で『コミカル賞』を狙う」
 えへん、と千鶴が胸を張る。
 その後ろで更衣室が開いて、ものすごく体格の良すぎる女子高生がでてきた。日焼けした肌、幅広い肩、逞しい胸。がっつりしすぎだ。ミニのプリーツスカートは悲しいほどきちんと仕立てられ、皺も不自然な部分もなにひとつなく、筋肉質の脚を飾っている。
作品名:STRAWBERRY'S SUFFERING 作家名:カナタアスカ