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カナタアスカ
カナタアスカ
novelistID. 4748
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STRAWBERRY'S SUFFERING

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 小柄にかわいらしく仕上がりそうな水色、お笑いキャラの啓吾、ゴツいチャド。仏頂面の一護を足して、確かにグランプリを穫りに行く器ではないが、お笑い路線狙いが相場であろう。
「一護、次」
 無口な親友がさらりと順番をうながすので、一護は本気で泣きたくなった。泣きたい気持ちが少年の仏頂面をこわばらせ、漂う剣呑な雰囲気に周囲が身体を固くする。
「どうした、黒崎、着替えてないのか」
 紙袋を手に提げた、石田が教室に入ってきた。織姫がぱっとふりむく。
「石田くん。できたの?」
「あ、ああ」
「黒崎くんね、衣装が気に入らなくて着替えたくないんだって」
 石田の紙袋を受け取り、その中身を嬉しげに覗きこんだ、織姫が言った。
「そうなのか? 黒崎、井上さんの作品に文句をつけるとは、いい度胸だな」
 さすがのズレっぷりに、全員心で突っ込む。だが、天然コンビの会話はさらにずれた方向に進んだ。
 空気なんか読まない織姫が、ぱっと顔を輝かせて言ったのだ。。
「黒崎くん、制服がいやなら、これ着たらいいんじゃない?」
 これ? と疑問を浮かべる全員の注視の中、彼女が紙袋から取り出したのは。
 桃色のグラデーションに飾られた、フリフリのロリータ服だった。
 フリルとレースとフリルとレース。
 満足げにメガネをきらめかせる『メガネミシン』に、『天才少女』が満足げにうなずく。
「そうねえ……」
 思案げな千鶴の声がする。背中に受ける値踏みする目線に、どんな虚相手にも感じなかった足のすくみを覚え冷や汗をかく一護に、決定は宣告された。
「飛び入り枠があったわね、確か」
 かくて、少年の運命は決まった。

 本当はあいつら、これを狙ってたんじゃなかろうか。いきさつを思いだしながら、一護はひらひらひらひらした自分の衣服に目を落とした。
 ピンク色のグラデーションの衣装は一護の体型にぴったり合った。紐で調節がどうとか言われたが、見えない部分だし仕組みはさっぱりわからない。何枚着せられたのかも定かではないのだ。重ね着したそれぞれがどうなっているかなんて見当も付かない。
 立てかけた鏡に映るのは、自分という原型を留めないほど化粧された姿なのが、救いと言えば救いだった。因縁を付けてくる不良どもに、女子高生姿を目撃されるより、誰だかわからないほどに装ってしらばっくれるほうが楽かもしれない。
 『ミズ空座一高』は基本的にはクラスか部活の代表が出て美を競うのだけれど、そういう公式団体以外が参加するための枠がある。『飛び入り枠』と言われるそれに一護がエントリーされたのは、ある意味幸いだった。クラスで出場したら、最低限そのクラスの人間とばれるが、即席の団体名の飛び入り枠なら、出場者が誰か判別しにくい。
 午前と午後に、他の参加者と一緒に『パレード』と呼ばれる更新に参加させられて、一護はくたくただった。『ミズ空座一高グランプリ』は、エントリー番号付けた参加者が校内を二度練り歩いて一般客や生徒の投票を集める。最後は、文化祭のラストイベントのひとつとして、グラウンドのステージで投票結果が公開され、『ミズ』が決まって終了である。参加者は女装のまま後夜祭に突入するはめになるが、啓吾がまた都合のいい妄想を繰り広げていたので、それはそれで受けるものらしい。女装の男子といつもの制服姿の女子のオクラホマミキサーに無理があると思うのは、一護だけのようだった。
 横目に見える鏡の中にいるのは、マロンブラウンの髪に長い睫。華奢な身体をピンクのフリルとレースに包んだ『少女』である。巻き髪のカツラと付けまつげ、オレンジピンクのチークにチェリーピンクの口紅。眉間の皺はふわっとした前髪に隠されて、仏頂面の男子高校生の面影はどこにもない。
 妹たちが来ないことになっていて、ほんとうに良かったと、一護は胸をなでおろした。
 秋のよき日、運動会が重なっているのだ。日程がわかったときは、運動会を見れない一護も、高校を体験できない妹ふたりも、双方がっかりしたが、いまとなっては天の配剤に感謝したい。妹側の行事がなかったらふたりを連れて父も来ていたはずで、息子のこんな姿を見た父の反応は、想像さえ遠慮したい。女装した一護は、たつきが指摘するほどに母親の面影があった。過剰反応が更にインパクトを増すのは、たやすく予想が付く。
 見られる、といえば。
 あの男は来たのだろうか。
 裏道の駄菓子屋にすらポスター貼付を依頼した実行委員会のやる気のせいで、今日が学祭だとは知られている。あんまりうるさく問われたから、焼きそば屋だとも教えてしまった。一護は変な靴のおかげで動く気にはまったくなれず参加していないが、チャドたちは焼きそば屋を手伝っているし、支度係の役目が終わった織姫たちだっている。知った顔を見つけた商店主に訊かれれば、みんな一護の場所を教えてしまうだろう。
 お日柄もお天気もよい週末、いくら浦原商店だって忙しいに違いないと、一護は自分に言い聞かせる。男に、こんな自分じゃない姿を見られるのはいやだ。一番奥底の本質をさらしてしまっているからこそ、過剰に装った自分を見せたくない。
 教卓の上の時計はほとんど夕方で、つまり学祭の終わりが近いことを伝えている。最後のおつとめ、ステージでぼーっと突っ立っている時間はもうすぐということだ。
 足だけが不安だった。生まれてはじめての珍妙な厚底靴は、『合宿』並の苦行で、バランスをとるのがやっとだ。そんな靴で敷地中をくまなく二度も歩いたのだから、足首も足裏も限界を訴えている。さっきよろめいたのも、疲労が主な理由であった。
「あああ……」
 いろいろどうしようもなく、一護は呻き声を上げた。
 逃げるのは性格がゆるさない。このままステージをやり過ごして、後夜祭はもちろん出ずに帰る。はやく時が過ぎたらいいのに……。
「なに呻いてんスか。そんなかわいらしい格好して」
「うっわあ!?」
 降って湧いた声に喫驚して、一護は悲鳴を上げた。とっさに慌てて立ち上った動作に、机と椅子がガタガタ騒ぐ。
「どっから入ってきたんだよ!?」
 声の主は、悪徳駄菓子屋のぐうたら店主だった。
 いつの間に入り口の引き戸を開けたのやら、教卓脇をすり抜けて近付いてくる男に、一護は問い質した。
「入り口からに決まってるじゃないスか」
「何しに来た」
「何って、学祭見に」
「だってその格好」
「野暮用で出てたんスよ。帰り道通りかかったんで、寄ってみたの。いやー、いいもん見れたッスねぇ」
 サヴィル・ロー仕込みのブリティッシュスタイルのピンストライプの上下に、ぴかぴかの革靴。たまに見るよそ行きの格好で降って湧いた男は、楽しげに顎の下をかいた。
 よれよれの作務衣と変な帽子を取り払って、ぼさぼさの髪も寝癖を整えて、そうするとどこぞの紳士にしか見えない。合板と蛍光灯でできた教室にたたずむ姿は、あまりに場違いだった。
「うっさい」
 感嘆を否定して、一護はうつむいた。ひどく気恥ずかしい。
 自分の格好も教室にはそぐわない。しかし閉じた引き戸から忍び込む、文化祭の浮かれた空気が、このひらひらの道化じみた雰囲気をおかしくないような錯覚を感じさせて平気だったのだ、ついさっきまでは。
「照れないでよ。ね、ちゃんと顔見せて」
作品名:STRAWBERRY'S SUFFERING 作家名:カナタアスカ