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猿の婿入り

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 喜び勇み声を上げようとした瞬間、崖のほうから猿の声がして、サンジは耳を疑いました。しかしすぐにゾロは崖をえっちらおっちらとよじ登ってきまして、なんでもないようにサンジにこぶしの花を差し出します。
「ヘエ、俺は花なんぞよくわかんねえが、これが綺麗なもんかね。てめえの方がよっぽど綺麗に見えるがな」
 そう言って猿はサンジの髪に花を挿し、そのまますたすたと先に進んでいってしまいます。サンジは悔しくって悔しくって、地団駄を踏みましたがそれでどうにかなるものでもありません。
 暫く進むと、黒々とした木々や草に覆われた小さな沼が見えてきました。それを見た途端、サンジの頭には懲りずにまた悪い考えがむくむくと沸き起こりまして、これが最後だ、絶対にこいつの断末魔を聞いてやろう、と意地の悪い執念を燃やします。
「あっ」
 サンジは足元にあったなんでもない石を沼にどぼんと放り込みました。
「ああ、なんてこった。大事な石を沼に落としちまった」
「石? 石なんかがどうして大事なんだ」
「あの石、ジジイによく似た形をしていてよう。俺、懐かしくって……」
 いかにもいじらしげに俯くサンジをゾロは暫くじっと見つめていましたが、とうとうわかった、と沼に足を浸けました。
「悪いなァ。でも、俺あの石がなけりゃ、お前と結婚できそうにもねえんだ」
「仕方ねえ。なんとか探してやるよ」
 素直で馬鹿な猿は、ずぶずぶと沼の底へと沈んでいきます。もちろん、ゼフに似た形の石など、どこにも無いのです。やったやった、とサンジは小躍りしました。
 すると猿がさきほどサンジの髪に挿したこぶしの花が地面にぽとりと落ち、なんとも不思議なことに、それはまず最初に蛇、次に蛙、最後に大きな蛞蝓へと形を変えてサンジに襲い掛かりました。
「わあ、うわあ」
 これにはサンジも思わず声を上げ、逃げようとしても足はもつれ、どすんとしりもちをついてしまいます。蛞蝓はどんどん大きく大きくなり、今やサンジを飲み込んでしまいそうなほどです。
「やめろ、やめろ」
 正気を失いサンジはただぶんぶんと手足を振り回すことしかできません。しかし相手は蛞蝓ですから、サンジが殴っても蹴っても、痛くも痒くもないのです。
(俺、ナメクジに食われちまうんだ、ああ、こんなことになるなら、大人しく猿の嫁になっておけば良かった……)
 自分の行いを悔い、サンジがぽろりとひと粒の涙を落としたそのときです。
「おい、大丈夫か!」
 まさか、まさか、猿の声がびぃんと響き、サンジが目を見開くとそこには、巨大な蛞蝓をぶんぶんと振り回し、空遠くに投げ飛ばすひとりの男の姿がありました。
「大丈夫か、怪我はねえか」
 心配そうに駆け寄ってくる男は婿入り衣装を水に濡らし、背中には縫い針でいっぱいの水がめを背負い、なんと、小脇には黄金の塊を抱えているではありませんか。
「お、お前……」
「ほら、もう泣くな。爺さんそっくりな石も取ってきてやったからよ」
 サンジの涙を拭いながら、ゾロは黄金の塊をずいと差し出してみせました。それはどう見たって仏像か何かのようなのですが、確かに不思議とゼフによく似た面影をしています。
「なんで、お前、どうして……」
 ぱくぱくと口を開いたり閉じたりするサンジの頭に、猿の神様はぽんと手を乗せました。それは不思議に温かく、サンジの旋毛からはじんわりとした温もりが身体中に伝わります。いや、その手は最初からずっと暖かかったのです。サンジを抱えて橋を渡ったときも、こぶしの花を髪に挿したときも。
 サンジはゾロにすがりついてわんわんと泣きました。サンジが泣いている間もゾロの手は温かく、それで余計に泣けてしまうのです。
 サンジの頬を伝ってぽたぽたとこぼれた涙は山中に広がり、どの季節の木も草も、一斉に花を咲かせました。
「俺、俺、お前の嫁になってやるよう」
「ああ、知ってる」
 その後、ゼフ似の仏様のご利益でしょうか。猿の神様と意地っ張りな人間の奇天烈な夫婦は花に囲まれ、ももとせを幸せに添い遂げたということです。
 めでたし、めでたし。
作品名:猿の婿入り 作家名:ちよ子