DISCORD
夏が終わった。
長いようで、短い夏だった。
監督の渡邊が手を叩くと、部員たちが彼に注目した。地面をぼんやりと見つめていた白石も顔を上げる。
「よーっしゃ、みんなお疲れさん! よう頑張ったな。さ、オサムちゃん特製流しソーメン、行くで〜」
「しょぼ〜……」
がっくりと肩を落とす金太郎を財前が小突き、その二人の背を押して小春、ユウジが渡邊の後を追い、更にその後ろを銀と千歳がゆったりと歩いてゆく。
(頑張った、か)
白石は空を見上げた。憎らしいほどに真っ青だった。反対側のベンチでは、対戦校だった青春学園の面々が勝利を喜び合っていた。ついさっきまで同じ、いや、彼らに負けないぐらいの情熱で戦っていたというのに、今となっては天と地ほどの差があると思った。
今の白石の心は、空虚だった。
(負けや)
惨めだ。
誰も責めはしないけれど、誰一人として悔しくないわけがない。誰も言わないけれど、労ってくれるけれど、自分の力量不足だ、と思っていた。部員の本当の力を引き出せなかったのだ、と。自分さえしっかりしていれば、彼らの力を発揮させられれば、この素晴らしいチームが負けるはずなどないのに。
「白石」
はっとして顔を上げると、謙也だけがそこに立っていた。他のメンバーの背中は既に遠くなっていた。謙也はぎこちない笑顔を浮かべて、白石の肩を叩いた。ばしん、と音がして、白石の体が僅かに揺らぐ。自分でも思った以上に力を入れてしまったらしく、謙也は驚いたように目を丸くした。それからまたすぐにぎこちない笑みに戻った。
「はよ行くで」
「……せやな」
足を踏み出す。ひどく重かった。
アリーナから出るための薄暗い通路を、並んで歩く。
「ソーメンかあ。ビミョーやな」
「ん」
「金ちゃん、メッチャ不満そうやな。アレは肉食わせなオサムちゃんが食われるわ」
「ん」
「でもまあ、ソーメンも悪ないよな。オサムちゃんの金でもたくさん食えるし、みんなで食うなら楽しそうやしな」
「ん」
「惜しかったな、試合」
「……」
試合。頭の中で、何かがちりちりと焼き切れる音がした。
「あかんかったなあ。でも、白石はホンマよう頑張ってくれた。今回の試合だけのことやないで。2年間も部長やって」
長いようで、短い夏だった。
監督の渡邊が手を叩くと、部員たちが彼に注目した。地面をぼんやりと見つめていた白石も顔を上げる。
「よーっしゃ、みんなお疲れさん! よう頑張ったな。さ、オサムちゃん特製流しソーメン、行くで〜」
「しょぼ〜……」
がっくりと肩を落とす金太郎を財前が小突き、その二人の背を押して小春、ユウジが渡邊の後を追い、更にその後ろを銀と千歳がゆったりと歩いてゆく。
(頑張った、か)
白石は空を見上げた。憎らしいほどに真っ青だった。反対側のベンチでは、対戦校だった青春学園の面々が勝利を喜び合っていた。ついさっきまで同じ、いや、彼らに負けないぐらいの情熱で戦っていたというのに、今となっては天と地ほどの差があると思った。
今の白石の心は、空虚だった。
(負けや)
惨めだ。
誰も責めはしないけれど、誰一人として悔しくないわけがない。誰も言わないけれど、労ってくれるけれど、自分の力量不足だ、と思っていた。部員の本当の力を引き出せなかったのだ、と。自分さえしっかりしていれば、彼らの力を発揮させられれば、この素晴らしいチームが負けるはずなどないのに。
「白石」
はっとして顔を上げると、謙也だけがそこに立っていた。他のメンバーの背中は既に遠くなっていた。謙也はぎこちない笑顔を浮かべて、白石の肩を叩いた。ばしん、と音がして、白石の体が僅かに揺らぐ。自分でも思った以上に力を入れてしまったらしく、謙也は驚いたように目を丸くした。それからまたすぐにぎこちない笑みに戻った。
「はよ行くで」
「……せやな」
足を踏み出す。ひどく重かった。
アリーナから出るための薄暗い通路を、並んで歩く。
「ソーメンかあ。ビミョーやな」
「ん」
「金ちゃん、メッチャ不満そうやな。アレは肉食わせなオサムちゃんが食われるわ」
「ん」
「でもまあ、ソーメンも悪ないよな。オサムちゃんの金でもたくさん食えるし、みんなで食うなら楽しそうやしな」
「ん」
「惜しかったな、試合」
「……」
試合。頭の中で、何かがちりちりと焼き切れる音がした。
「あかんかったなあ。でも、白石はホンマよう頑張ってくれた。今回の試合だけのことやないで。2年間も部長やって」