DISCORD
頑張った。人の何倍も頑張った。
頑張ったから何だ。
勝てなければ、そんなものに意味はないではないか。
「もう、ええからほっといてくれや!」
気付いたら叫んでいた。しまった、と思った時には既に遅く、表情をなくした謙也が目を見開いて固まっていた。
自分の顔からさっと血の気が引いていくのを感じた。
きゅ、と唇を噛み締めた謙也が俯く。
「……すまん」
「ケンヤ、悪い、俺、」
肩に触れようと伸ばした手はするりとかわされ、謙也が微笑んだ。けれどその泣き顔のような笑顔は、胸をきつく締め付けた。
「や、俺が悪かったわ! ちょっと頭冷やしてくるし。ソーメン、先行っといてや」
「ケンヤっ!」
叫ぶ声は無機質な空間に空しく反響した。謙也の背中がみるみるうちに遠く見えなくなるのに、鉛に繋がれたように重い足は動かない。
謙也を捉えようと前に突き出した手は、ぱたりと体の横に落ちた。重い溜息を吐き出す。
「あーあ、何やっとうとよ」
顔を見ずとも誰だかわかる、強い訛り。声のした方を見つめていると、先に行ったはずの千歳が陰から現れた。
「何してんねん、千歳」
「白石こそ、何ばしよっと? 謙也んこつほっといてよかと?」
白石は千歳から目を逸らし、謙也が走り去っていった先をぼんやりと見つめた。もう、背中は見えない。白石は自嘲するように笑った。
「……今は、俺の顔なんか見たないやろ」
「白石が言うなら、そうかもしれんばいね」
背後で千歳も笑った気配がした。
「そんなら、俺が謙也捜してくるばい」
「え、なんで!?」
思わず声をあげて振り返る。あまりの大きな声に驚いて目を大きく見開いた千歳としばらく見詰め合う。急に恥ずかしさがこみ上げてきて、白石は自身の熱を持った頬をさすりながら誤魔化すようにぎこちなく笑った。
「……っは、はは」
「ぷっ。ははは! 何ね、行きたいなら白石が行けばよかと」
腹を抱えて笑う千歳を睨みつける。完全にからかわれているな、と今更ながらに理解した。憮然としながら千歳に背を向け、固い床を蹴った。