DISCORD
唐突な白石の問いに、ええよ、と返事をすると、彼はすぐに隣へ移動してきた。急に近くなった距離に、何故か鼓動が速くなり、身体が強張る。悟られまいと俯いたが、左半身にじっと注がれる視線は無視できず思考が乱れる。
「ケンヤ、こっち向いて」
「何やねん」
やけくそのように顔を上げると、白石の綺麗な手が伸びてきた。瞬時にびくりと肩を竦めて目を閉じたが、頬に触れた手のひらの温かさに、ゆっくりと目を開けた。
「目、真っ赤や」
くす、と笑われて、謙也は顔に熱が集まるのを感じて俯いた。しどろもどろになって何とか言い訳を探したが、何も見つからなかった。その間に、包帯を巻いた白石の手が謙也の手を取って、優しく包み込む。はっと顔を上げると、やはり綺麗な顔で白石が微笑んでいた。
「ケンヤが代わりに泣いてくれたから、スッキリしたわ」
「……白石」
「めっっっっちゃくちゃ楽しかった。2年半、ありがとうな」
この男が好きだ、と本能が叫んでいる気がした。
何よりも好きで、大切だった。彼がどうしても勝ちたいと願うから、ダブルスとしての出場を辞退した。彼のチームで勝ちたかった。彼と抱き合って喜びを分かち合いたかった。そう思うと、また視界が滲んだ。抑えきれない雫が、ぼろぼろと零れ落ちた。
白石が嬉しそうに笑いながら、ジャージの袖で涙を拭う。
「テニス部は引退やけど、これからもケンヤと一緒におりたいなあ」
「……アホ、一緒やっちゅーねん。同じクラスなんやから……」
「放課後も一緒におりたい。できたら一日中一緒におりたい。ずーっと一緒におってほしい。イヤ?」
白石が小首を傾げて問うと、謙也はすぐにぶんぶんと首を横に振った。恥ずかしすぎて白石の綺麗な顔なんて見られなかったが、謙也は俯いたまま言った。
「イヤやない。俺かて、白石と、おりたい」
白石がくしゃりと、ひどく幸せそうに笑う。
何やろ、めっちゃ嬉しいなあ、と呟いた声と手を握る体温が、胸の奥に甘く溶けた。