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ロストブルーフィルム

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リピートゲーム


 手を伸ばせば届く距離にある、癖のない脱色して傷んだ髪。
 それが小さく開いた窓から吹き込む涼しい風に揺れているのを、幾重に重ねたレンズの歪みを通してみるような視界の中で捉えて、まるで、とんでもなく懐かしいものを目撃したような気になって、思わず腕を伸ばした。
 ただ、触れることができたなら。
 それだけを祈るような気持ちに強く引かれる。

 (そんなことが、叶うはずもないのに)

 「人は愚かだが、愚鈍ではない」
 夜の動物みたいな峻烈の黒い影に、眸の赤を差して折原臨也は淡々と云う。
 老いた人のように静かに祈る方法を知っているその手を拾い上げ、キーボードを打つのにお誂え向きな4本の指の背を綺麗に揃えると、口付ける仕草でソファに腰を屈めて、主の機嫌取りをするように赤い視線を蛇の舌先めいてちろりと向けた。
 「だから今は少し疲れてるだけで、もう少し寝たらいいよ」
 これが夢でも、現実でも、あるいは何かの延長線上であっても。
 「まだお休み、竜ヶ峰帝人くん」
 どうせ目が覚める先は此処しかないんだから安心しなよと、言祝ぎみたいに囁いて、力なく垂れるばかりになった腕を彼の胸の上に返してやる。そうしてよくできてはいるのに、やはり感情だけが宿らなかったような透き通る目に浮いている涙を味気なく拭ってやれば、また自らのデスクへと臨也は戻っていった。
 AM00:38、日曜日。
 昼間のうちに有能な秘書が整理してくれたファイルを手の上に広げ、彼にとっては意味のあるナンバリングでまとめられている雑誌や新聞の切り抜きを眺める。事件、事故、為替指数、コラム、株情報、単なる噂の一人歩き。
 目の前のディスプレイにチャットルームが表示されていたが、今夜は誰の入室ログも残っていなかった。
 きい、きい、左右に揺らすチェアの音がぴたりと止む。
 「ああ、誰の世迷い言か忘れちゃったなぁ」
 こういうのって思い出さないといけないんだよねえと独りごちて、紅茶を啜る。
 殊、たった一人を除いては、かの妖刀とも渉り合えるほどに人を愛せる臨也の精神力は並ではなかった。だから当然のように、ちっぽけな人っ子でしかない彼に対しても彼なりの愛の定義をあてはめることができたし、人知れず匿ってやることだって容易かった。
 喩えば情報という名の見えないケーブルに絡めとられ、溺れそうなら丁寧に解いてやることもできるし、あることないことを囁いては、彼を甘やかしてやさしくしようとする過去に囚われてしまわないよう、人の温もりを与えて、血で汚れた手や顔をぬるま湯で洗ってやることだって厭わずにできる。
 邪魔が多くてとため息を漏らす傷だらけの顔を手当てしてやりながら、今日はどんな命乞いされたのと問い掛けられ首を傾げる彼の様子など、嬉々驚嘆に値した。
 純粋さはときに小さな狂気で、驚喜に変わり、凶器のようだ。
 果たして熱のない色をして転がっている彼が望んで止まない理想は成就するだろうか。それに直に加担するわけでもなく、折原臨也はその手の中で彼を泳がせるような気分で、今夜も情報の海で夜明けを待つ。