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休日の午後

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静雄ver.

蝉がうるせぇ。
街頭のテレビ音が、車から垂れ流しにされてる音楽が、どっから湧いて来てんだといいたくなるような人間の声がうるせぇ。
珍しく仕事が休みになったせいで、1人で街中を歩くと少しだけ落ち着かない気分になる。
その落ち着かなさはじわじわと苛立ちに変化していって(たぶん腹が減ってるせいもあるだろう)思わず煙草のフィルターに軽く噛み付いた。
どこか適当なところで飯でも食うか、と視線を巡らせれば向こうのほうから歩いてくる人影が(あ、)

「竜ヶ峰」
「こんにちは静雄さん」
「おう・・・一人か?」
「大変嬉しいことに一人です」

こっちをコソコソ見ながら離れていく人波の中に、ヤツの姿が見えないことに一応安心しておく。
ここ最近よく竜ヶ峰の周りに出没するあの蟲は必ずいつか息の根止めてやる(ずっと変わらないヤツへの不快感)(と、竜ヶ峰への)

「もしノミ蟲が沸いたら呼べよ。殺すから」
「はい。その時は是非よろしくお願いします」

ぴょこっと頭を下げる姿が小動物みたいで、ほのぼのした気分になる。
さっきまでイライラしていた気持ちが、夏の熱で溶けるチョコレートのようにみるみるうちになくなって。
くわえたままだった煙草を捨てて、片手で握りつぶせてしまうんじゃないかと思うぐらいに小さい頭をなでる(この感触が気持ちいい)(目を細めて笑う姿も)(かわいい)
いまどき珍しい真っ黒な髪の先から、ぽたりと汗がこぼれる。
首筋に流れいくその動きに目を奪われる。
夏の暑さで軽く上気している頬に思わず手を伸ばして、軽く目じりをこすった。
くすぐったそうに肩をすくめる動きが小動物のように愛らしい。
そのまま頬に手を当ててちっせぇ口に指を突っ込んでみたい気もするが、さすがにそこまでは自制する(怒り以外の感情は、案外抑えられるもんだな)

「暑そうだな」
「そりゃ夏ですし・・・というかなんで静雄さんはそんなに涼しげなんですか。長袖なのに」
「ん?あー・・なんでだろうな?冬もあんまり寒くねぇぞ」
「いい体質ですねー・・・」

そんなにうらやましそうな目で見られても困る。

「えっと、じゃぁこれで。失礼します」

俺にしては随分と穏やかに、ほのぼのと、幸せな会話ができてると思ってたのに、あっさり別れを切り出されてしまって内心慌てる(せっかく会えたのに)
臨也のやつもいないなら、これはチャンスだろ?

「どこか用事か?」
「え?」

目をまん丸に開いて首をかしげる。
こいつはいちいち仕草が可愛いんだが(ほんとに高校生か?)

「あぁ悪い。もし急ぎじゃねぇなら飯でもどうだ?もう食ったか?」
「いえ、まだですけど・・僕とですか?」

(お前以外に誰がいるんだ!)
一瞬つっこみたくなったが、ここで声を荒げでもしたら怯えられてしまうんじゃないかと全力をかけて衝動を押しとどめる。
少々ぎこちなくなってしまったかもしれないが、軽く頷いておく。
うーん、と空を眺めるようにして考えていた竜ヶ峰が、ちょっと照れたようにはにかんだ笑みを浮かべて

「えっと、マックぐらいなら大丈夫です」

誘っておきながら金を出させるような男に俺は見られているのだろうか(まぁ別に金持ちってわけじゃないが・・・)
それとも昼食べるぐらいしか付き合わねぇよという意味なのか(だとしたらその後どこ行くんだ)(ノミ蟲のとこだったらキレる)
とりあえず竜ヶ峰が学生だということを考慮するなら、金の心配のほうだろう。

「金は気にすんな。昼飯代ぐらい奢ってやるよ」
「いや、それはさすがに・・・」

悪いと・・なんて小さくつぶやきながら俯かれてしまった。
まぁここで『じゃあ遠慮なくー!』と言われたらびっくりするが(もし言われたらそれはそれでいいけど)(でもキャラじゃないだろ)
竜ヶ峰が俯いたせいで、重力に引かれてまた汗が首筋を伝ったのが見えた。
ぽたりと落ちるその流れに、また目が奪われる。
高校生にしては白くて細すぎる首に汗が滴って、頬は軽く上気していて、さらに浮かべた表情は曖昧に微笑んでいて(ヤバイ)(場所がどうのじゃなくて、こいつ自身の状態がやべぇ・・!)

「え゛っ!?」

気付いた時には、俺の手が竜ヶ峰の首にかかっていた(あれ、何してんだ俺)
さっき全力で押さえた衝動は変な形で俺の右手に現れていて。
喉の細かく震える振動が伝わって、汗でしっとりと濡れた皮膚が、その感触が(・・・エロい)
よほどびっくりしているのか(そりゃそうだろうな)目がほんとにまん丸になっていて、しかもがっちり視線を合わせてくるのが俺にとっては新鮮だ(大概俺と目が合ったやつは向こうから逸らしてくる)
半開きになっている口がもう少し開いたら舌が見えるな・・なんて思いながら、皮膚の感触を確かめる。
少し擦ると小さく体が震えた。

「・・・・ぁ、あの・・静雄さん・・?」

あ、舌が見えた(噛みつきたい)(けど、駄目、だ)
別のところに意識を逸らさないと自分がヤバイことになると思ったので

「・・・本気で暑そうだな」
「そ、そうですね・・・」

と、誤魔化してみたものの、どうしてお前は(そう可愛く笑うんだ!)
困ったように下げられた眉も、柔らかく緩んだ目尻も、触れてみたい。
もっと言うなら、手のひらを押しあてたままの首筋にだって、今も薄く開いている唇にだって(我慢なんて)

「うまそうだな」
「はい・・?」

(無理に決まってる)

舌先に触れた皮膚は汗でしょっぱかった。
一度触れたらもっと欲しくなって、軽く吸いついておく。
残った痕に、誰にともなく笑った(ざまぁみろ)

「よし、じゃあ行くか」

怒られる前に身をひるがえせば、戸惑いながらも肯定する声が聞こえた(よかった)
一歩踏み出すと、揺れながらも後ろの気配はちゃんと俺についてくるし、一応セーフってことにしておこう。
ただ問題なのは、もし竜ヶ峰が今逃げ出したとしても追いかけられないぐらいに、俺の顔が赤いってことだけだ。

(俺のものになんねぇかな、竜ヶ峰・・・帝人)





『帝人を公共の場で襲ったというのは本当か?』
「なっ、だ・・っ、誰から聞いた!?」
『・・・折原臨也だけど。帝人に酷いことしたら怒るぞ』
「竜ヶ峰のやつ怒ってるかな?あの時は俺もどうにかしてたんだ。だってあいつあんな上目遣いで口も半開きで、子犬みたいに見上げてきて、汗は流れてるし、拭いてやったらすごい可愛く笑うし・・・」
『(臨也の名前に反応しないほどに帝人で頭が一杯か・・)』
「あれから会ってないんだ・・・避けられてたらどうしよう、セルティ」
『・・・大丈夫だと思うぞ(くっついたらバカップルになりそうだなぁ)』

作品名:休日の午後 作家名:ジグ