きれいに食べてね
撫でる手をとめて、ぎゅうっとアントーニョはロヴィーノをだきしめた。ロヴィーノは心臓が口からでそうになった、いやでないのだけれど、そんな感触がするほどにびっくりどっきりしたのだ。アントーニョの、まだあつい息が耳のあたりをとおる。くすぐったい。それからあったかい。だけど自分のほうが、むしろ熱がでそうな気がした。もう何百年も、彼らは互いを拠り所にしていたけれど、いつまでも慣れないことだってある。ロヴィーノは得てしてアントーニョに対する免疫だけはいつだって弱かった。
「な、なんだよこのやろー」
「親分さみしくてしぬかとおもったわ」
「だ、だったら連絡くらいしろってんだ」
「したらロヴィ来るやろ?」
「あたりまっ・・・・」
当たり前だと言いかけてロヴィーノは恥ずかしくなって口を噤んだ。アントーニョの口の端が笑っているのがわかった。ほんとにずるいおとこだとおもう。こうして、どんどん、俺をひきだすんだ。ひとりでは出せないことを、理性とプライドが邪魔することを、さっと取り払ってしまう。
「ん?」
「なん、でもねぇよっ」
「そうなん?」
「も、いいから離せ寝てろ、まだ病人だろーがっ」
「こうしてた方がはやく治る気がするんよねぇ」
「んなわけねぇだろっ」
ぎゅううと自分をしめる力が強くなったのを感じて、ロヴィーノはようやく諦める。諦めて、それから自分の手を、アントーニョの背中にまわした。たくましい背中だ。だけど、もう、大きいとはおもわない。小さなころは、対等にあこがれた。アントーニョの体格と、釣り合うようになりたかった。だけど、体は追いついても、精神的にはアントーニョの方が優勢で、またロヴィーノはくやしくおもう。いつだって、敵いはしないのだ。
「・・・おい馬鹿」
「んー?」
「パエリア食いたい」
「そーか、ほな、はよ治さんとなぁ」
「そーだ、早く治せよ、馬鹿親分」
雨足が弱くなっているのが、窓をうつ雨音でわかった。通り雨だったのだ。直にやむ、すぐに雲は流れる。そうしてその隙間から、明るくてあつい、太陽がでてくる。
アントーニョが耳元でちいさく笑ったのがわかって、おもわずロヴィーノも笑ってしまった。トマトをたくさんつかったパエリアがいい、とおもった。