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昼白色

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いるかい、という短い伺いの後、木戸がすらりと開かれる。薄暗い部屋に小春日特有の馬鹿明るい光が差し込み、政之助の目は一瞬眩んだ。
「……弥一殿」
「いいって。部屋にいる時ぐらいくつろいでな」
 佇まいを畏まらせたところを、弥一に声だけで制止される。
 懐手で柱に背を持たせた弥一は随分と気だるそうだ。ただでさえやくざ者にしか見えない風貌に、色悪の雰囲気が重なって見える。顔つきも普段より隙がある気がした。
 今まで寝ていたのだろうか、昨日も忍んでくる遊女の相手をしていたのかもしれない、と柄にも無く政之助は邪推した。
「ちょっと用がある。半刻ほど貸してくれ」
 訳も分からぬまま頷く。どこかへ参るので、と問うと、今ここを空ける訳にはいくめぇよ、と含み笑いで返された。
「女達は湯使いだ。三町先の銭湯に顔の良い三助がいるとかでな。主人は作らせてるかんざしの進み具合が気になるらしい」
「松吉殿の店でござるか」
 こんな端近の部屋を宛がわれておきながら、遊女達の行き先はおろか、人が出払っていることすら気付かないとは……。
 政之助は己の愚鈍さに嫌気が差した。滅入る気持ちと共に吐いた息はごく小さく、溜息さえも度胸が無い、と我ながら呆れるばかりだ。
「つまり今は人がおらぬのか。そのように無用心にして、女所帯だというのに大丈夫でござろうか」
 弥一は僅かに目を見開き、それからさっきよりも露骨に笑い声を立てた。くく、と口の端を震わせながら、火鉢の前へ着座する。
「なんのためにここにいるんだい、あんた」
 全くだ。自分でも十分すぎるほど分かっているのだが。
 政之助は弥一の口利きで桂屋に入った。用心棒として雇われているはいるが、女郎たちに気押されているばかりで日々が過ぎ、正直護衛として役立つどころではない。居候、と呼び名を変えてしまった方がいっそしっくり来る。
「面目ない……。だがそんな簡単に預けられてしまっては」
「竹光差してるんじゃねえんだ、もっとしゃんとしな。腕は立つんだからさ」
 弥一は片頬で笑みながら煙管に火を浸ける。
 片肌脱ぎになった二の腕。立膝でだらしなく座る足元。大きく開いた襟や肌蹴た裾から覗き見えるのは、肌理の整った――――
作品名:昼白色 作家名:SOW