昼白色
今まで幾度となく抑圧してきた邪さがまた焔を上げんとする。政之助は恥じ入るように俯き、少々間を置いてから本題に入った。
「して、今日は如何様で」
「如何様で、ねぇ……」
鸚鵡返しにする弥一の声に、先程までの軽やかさは無い。急な違和感に政之助が顔を上げると、向かいに座っていたはずの弥一がすぐ隣で構えていた。整った彼の顔が目の前に迫る。肩口を軽い力でとん、と突かれただけなのに、あっけなく畳に寝転がされてしまった。
「おめえさんが欲しいんだが……今は気が乗らねえか」
「……わからないでござる」
「乗らねえ、とは言わねえんだな」
勝気に出られれば、政之助元来の引っ込み思案が先に立ってしまう。押し黙るっていると、弥一はその気弱さに器用につけ入り、目で制してくるのだ。
腰紐に手を掛けながら彼が寄越すのは、優しく、それでいて有無を言わさない逼迫した視線。弥一の強気な表情を見ると、優柔不断でうだつの上がらない自分が許容されているような、流されてしまいたいような気分にさせられる。
「好きにさせてもらう。嫌ならいつでも言えばいい」
それ以上も以下も無い響き。政之助は止めることも進むことも出来ず、ただ戸惑っていた。
弥一は自らの懐へ手を入れ、もう片方の肩口からも腕を抜く。
露にされた、儚くしなやかで透き通りそうな上半身。政之助は知らぬ間にその胸元へ掌を寄せていた。
その白さは、狡かろう……。
我慢の利かない自分が恥ずかしくて仕方ない。政之助はぎゅっ、と童のように固く目を瞑った。
この御仁のようでありたい、と、この御仁が欲しい、は同義なのだろうか……などとしゃっちょこばって考えているうちに、気付けばすっかり弥一の中に飲み込まれていたのだった。