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夢を見た。

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夢を、見た。

 気がつくと、風の吹く荒れ野にひとり佇んでいた。
 戦でもあったのだろうか、短く新しい下草に隠れて、焼け焦げた物体がそこここに転がっている。火薬の残骸か燃えた武器か、それとも。足元のひとつを拾い上げようとかがみこんだとき、ふいに頭上から声がした。
「三郎」
 はっと顔を上げる。いつの間にそこに現れたのか、声の主は、いつもの穏やかな笑みを浮かべて三郎を見下ろしている。
「雷蔵。どうしてこんなところに」
「雷蔵?」
 皮肉っぽく口端を引き上げた雷蔵に、三郎は強烈な違和感を覚えた。違う。こんな表情が、彼の中に存在するわけがない。これは、雷蔵ではない。
「……誰だ」
「誰だ? ご挨拶だな。君もよく知っているはずだろう?」
「知っている、だと? ふざけるな、お前は雷蔵じゃない」
「そう、雷蔵じゃない。なら、誰だ?」
 自ら否定しておきながら、「それ」は相も変わらず、雷蔵と同じ顔でにやついている。何を言っているんだ、と声を荒らげようとして、三郎はようやく、気づいた。
 雷蔵と同じ顔をした、雷蔵ではないもの。
 目を見開いたまま凍りつく三郎に、「それ」は嬉しげに言葉を投げる。
「どうしてそんな顔をするんだ? こうしたかったんだろう。ずっとなりたかったんだろう、『彼』に?」
「……違う」
「いいじゃないか、すべて捨ててしまったって。自らの願望に抗ってまで守りたいのか。そんな価値があるものなのか、『自分』に?」
「黙れ!」
 金縛りにあったように体が動かない。今すぐ、どうにかして、この男の仮面を裂いてやらなければならないのに。あの優しい彼のかんばせを張りつけたいまいましいその顔を、暴いてやらなければならないのに。
 強風が草を揺らし、渦になって三郎の回りでざわめく。黒く焦げた何かが転がって、悲しい歌のような響きをあたりに撒き散らしている。
 寒気のする光景に三郎が意識を手放しかけた、そのとき。
(――ろ、う)
 ふと。
 風の隙間を縫って、どこからか声が聞こえた気がした。
「……雷、蔵」
 見上げると、高く青い空の真ん中から、鮮やかに赤い花びらが一枚、ゆっくりと舞い降りてきていた。頼りなげにふわふわと揺れながらも、吹き荒れる風に流されることもなく、意思あるもののように、三郎のもとへと。
作品名:夢を見た。 作家名:いずみ