夢を見た。
震える手をどうにか伸ばし、その花弁に三郎の指が、触れた。ぱん、と何かがはぜる音と共に、視界が急激に白く染まる。
(大丈夫、三郎)
「雷蔵……雷蔵っ」
三郎の頭の中を、雷蔵の声がゆるやかに満たしていく。
(大丈夫、僕は)
君のことが、好きだよ。
今、ここにいる存在。僕のとなりの、他の誰でもない無二の生命。
鉢屋三郎が、好きだよ。
ゆりかごのような暖かい光の中で、心地よいまどろみに手を取られながら。
三郎は確かに、雷蔵の声を聞いた。
「……郎。三郎ってば!」
ゆっくりと目を開ける。視界に入ってきたのは、雷蔵の、いつものあの心配そうな顔だった。
「どうしたの? すごくうなされてたよ」
「……あ」
「三郎? ……うわっ!?」
半ば無意識に、三郎は雷蔵の胸にすがりついていた。雷蔵はうろたえながらも、三郎の背に手を回す。
「……三郎。大丈夫だよ、僕がここにいるから」
「雷、蔵……っ」
いつの間にか外は白みはじめていた。穏やかで優しい朝の光が、部屋の中にゆっくりと溶けていく。
捨てられた幼子のように、ただ雷蔵の名だけを繰り返す三郎を、雷蔵はそっと抱きしめ続けた。