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彼が彼女になったなら②

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「ってなわけなんだけど…佐藤君、大丈夫?」

はは、と苦笑いしながら、窺うように佐藤君の顔を見遣る。
ポーカーフェイスの彼が、眉間に皺を寄せて頭を痛めている様子。
彼が今一番必要としているのは、目の前の現実を受け入れる覚悟といったところだろうか。
いや、それは俺も欲しい、と少し重くなった胸に視線を投げかけて溜息を一つ。
この脂肪の塊は男性にとっては夢の塊だと言われているけれど、自分についたところで万歳と喜べるわけがなかった。
いや、自分のモノなのだから揉み放題で喜ばしいことではないか、と考えようによってはそうかもしれないが、その先のことを考えると不安で、手放しで喜ぶ余裕はないだろう、今の俺の様に。
俺が自分の胸に視線を注ぎながらそんなことを悶々と考えていると、それに気付いた佐藤君がこほんと咳払いを一つ。
はっと顔を上げると、その彼の顔は少しだけ赤みが射していて、視線も宙に彷徨っていた。

「その、まぁ、話はわかった。とりあえず、お前はその服をどうにかしろ」

だよねー、と笑って、だぼっとしている服の裾を軽く摘む。
ちなみに、こんな状態では仕事に出られないだろうという佐藤君の言葉により、俺は私服へと衣装チェンジを行っていた。
そして、時折肩からずれ落ちる服を慌てて正すこと数十回。
自分は気にしないのだけれど、目の前の彼が、肩が肌蹴る度にびくっと焦ったように身体を揺らすので、なるべくずれ落ちないよう努めてはいるが、サイズの合わない服はなかなか言う事を聞いてはくれなかった。

「でも、どうにかするって、やっぱり服を買いに行けってこと?」

でも、この状態で行くのは多少難があるだろう。
下着さえ身に着けていない状態に、確実にサイズの合っていない大きな服。
明らかに行き交う人々の視線を買うことになるはずだ。
となれば、一体どうすれば。

「それは大丈夫だ。轟に頼んである。何着か服を買ってきてくれるそうだ」

「え?本当に?と言うか、そんなこといつの間に…」

「さっき、お前が私服に着替え直してる間に、事情を説明して頼んだんだよ」

「あ、そうなんだ…流石佐藤君、仕事早いねぇ。轟さんにも感謝しなきゃね」

「ああ、戻ってきたら礼言っとけよ」

「うん!」

心強い人がこんなにも近くにいることに、今の己の状況に焦りを見せるより嬉しさの方が勝る。
思わず緩む俺の顔を見て、佐藤君が呆れたように軽く小突いた。
作品名:彼が彼女になったなら② 作家名:arit