彼が彼女になったなら②
「お前、こんな状態さえも『いやぁ、面白い展開になりましたー』なんて考えてるんじゃねぇだろうな」
「まさか!違うよ!出来る限り早く元に戻りたいよ、当たり前じゃん」
「その割には、顔が緩んでるぞ」
「いひゃ、いひゃいほはほーふん!」
両側から頬を引っ張られた痛みで目を潤ませながら、無表情の佐藤君に目線だけで抗議する。
だけど止めてくれる気配はなく、暫くなすがままに弄られていると、
「あら、楽しそうね」
と、のほほんと場の空気を和ますようなトーンに、俺と佐藤君はその状態のまま顔だけを彼女の_轟さんの方へと向けた。
「本当に女の子になっちゃったのね、相馬くん」
上から下までを一通り眺め終わった轟さんが、頬に手を添えながらこれまたのほほんと言ってのけた。
あははと本日何度目かの苦笑いを見せて、近寄ってきた彼女に身体の向きを変える。
「はい、頼まれてたものよ」
差し出された袋を反射的に受け取り、礼もそこそこに袋の中身を確認して身体を固まらせる。
中身を凝視している俺を不審に思ってか、佐藤君も上から覗きこんできた。
「…観念しろよ」
ぽんっと同情するように肩に手を置かれ、涙目で佐藤君を振り返る。
どうせ他人事だよね、薄情者、と目で語るが、佐藤君は気付かぬふりをして俺の背中を軽く押した。
彼の言葉通り、観念するしかないと悟った俺は、ただ大きな溜息を吐くしかなかった。
作品名:彼が彼女になったなら② 作家名:arit